050 代理反応で原子力核データ測定
掲載日:2023年11月7日
半減期214万年
使用済み核燃料には、長寿命のマイナーアクチノイド(MA)と呼ばれる放射性同位元素が含まれる。その半減期は、ネプツニウム237だと214万年で、何十万年にもわたり管理する必要がある。この課題に対処するのが分離・変換技術だ。使用済み燃料からMAを分離し、これを核分裂させることで長寿命核種を短寿命核種や安定な核種に変換する。これが実現できれば、その管理は大幅に軽減できる。
そこで鍵となるのが、MAを核分裂させることができる高エネルギー中性子である。これを使って核変換を起こさせるための装置として、次世代の高速炉や加速器駆動炉が検討されている。しかし、その際に必要となる高エネルギー中性子入射反応の核データは不足しており、これらの次世代炉で核変換を行うためには、設計段階で高エネルギーデータをそろえる必要がある。中性子ビームのエネルギーが高くなると、統計精度は下がる。また、これらの次世代炉では、寿命の短い核種も生成され、核反応のネットワークを構成する。これが、データ取得をより難しくする。このため日本原子力研究開発機構では、重イオンどうしの衝突で生じる多核子移行反応を利用した特殊な観測方法(代理反応)を構築して、未測定だった核種のデータに加え、高エネルギー領域までのデータを取得することに成功した。
マルチチャンス
この研究は、東海村にあるタンデム加速器を用いて行っている。ここではもう一つ、重要な知見が得られた。マルチチャンス核分裂の解明がそれである。これは、高い励起エネルギーを持った原子核が直接核分裂するのではなく、中性子をいくつか出した後に核分裂を起こすという概念だ。この様子を図に示す。
しかしこれまで、これがどの程度核データに影響するかは知られていなかった。原子力機構では50メガ電子ボルト(メガは100万)の励起エネルギーを持つウラン240などの核分裂片収率分布を測定し、この場合最大5個の中性子を出してから核分裂するものまで混在することを明らかにした。
天体核反応
他の応用として、寿命の短い不安定原子核の中性子入射反応は、天体での元素合成を支配しており、代理反応を用いて天体核反応のデータを取得している。この手法は、エネルギー問題や、自然界での元素合成など、人類共通の課題や興味に答える技術として重要な意味をもっている。