原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

025 マイクロ波で加熱、再処理

掲載日:2023年5月9日

再処理廃止措置技術開発センター 施設管理部 転換施設課
主査 谷川 聖史

大学院では電気電子を専攻。原子力機構に入社後、2014年には硝酸プルトニウム溶液による水素発生などのリスクを低減する計画に取り組み、それを実施するための2年間の処理運転に従事した。現在は廃棄物の中に含まれるプルトニウム量を非破壊で測定する技術開発業務に取り組んでいる。

プルトニウム・ウラン脱硝

日本独自の技術

プルトニウムとウランの混合溶液を、電子レンジと同じ原理を用いて脱硝する。これが日本原子力研究開発機構(旧動燃)が開発した日本独自の技術であるマイクロ波加熱直接脱硝法(MH法)だ。再処理工程のプロセスを担うこのMH法は、わが国がプルトニウムの平和利用に道をひらく影の立役者となった技術でもある。

話は1974年にさかのぼる。この年の5月に、インドは核実験を実施。これをうけて米国は核不拡政策を強化し、日本で進んでいた再処理計画に「待った」をかける。

その後の日米再処理交渉で、日本側は粘り強い努力の末、「日米共同合意」が締結された。これにより日本は核兵器不拡散条約加盟国では唯一、再処理を前提とした核燃料サイクル路線を維持することが可能となった。

ただし、その再処理にあたって米国は、核兵器に転用されないように、プルトニウムを単体ではなくウランとまぜた混合転換方式という大きな変更を求めた。

しかし、この新しい方式の開発は困難を極める。おまけに交渉が定める開発期限までは、2年間しかない。このためアンモニア沈殿法などが検討されたが、途中で生成される微細沈殿粒子の濾過がうまくいかない。担当者たちは頭をかかえた。

レンジにヒント

ちょうどその時、技術者が、市販の電子レンジを目にする。「これを使ってウラン溶液の水分が除去できないか」。

そのアイデアをもとに溶液をレンジ内に入れたところ、山吹色に輝く三酸化ウランの脱硝体ができた。電子レンジのマイクロ波による急速加熱で、水分や硝酸を蒸発・濃縮できたことがカギとなった。

この実験結果をもとに、MH法の開発が急速に進む。やがて、この方法で得られたMOX燃料は欧米諸国の特許を取得。米国からは、核兵器に転用されにくい技術とも評価された。

平和利用に道

そして86年には、MH法を採用した東海再処理施設が運転を開始。これまで16.6トンのプルトニウム・ウラン混合酸化物粉末を製造し、高速炉用燃料などの原料として使用された。これによりこの施設は、核兵器を持たない国としては世界で唯一、再処理と核燃料サイクルを実現した施設となった。

このMH法はその後、青森県の民間再処理施設に継承され、わが国のプルトニウムの平和利用に道を開く礎の一つとして、今も進化を続けている。