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原子力機構の“いま-これから”
日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中第55回 アジアの「先生」を育てる
知識生かす
「私は原子力機構の講師育成事業に参加して、原子力の知識を深めることができました。ここで得た知識を生かし、母国で職員研修や講義を行っています。」ー。インドネシアからやってきたウィドド・ソエマディ氏は原子力機構の講習を受けた後に、こう語った。
1960年に発足した原子力人材育成センターはこれまで、6万人を超える研修生を受け入れてきた。その取り組みはおおよそ三つに分かれる。一つ目が国内研修で、RI(放射性同位元素)や原子力エネルギー技術者の養成などを行うもの。二つ目が大学と連携した取り組みで、東工大など7大学とネットワークを作り、共通講座や集中講座、遠隔授業、実習を行う。三つ目が国際研修で、アジア各国の若い世代を対象に、自国で原子力を教えることができる「先生」を育成するためのコースが設けられている。
冒頭の言葉は、この国際研修に参加したインドネシア原子力庁の職員が述べたもので、今回はこれらのうち、三つ目の国際研修について紹介する。
「放射線利用技術等国際交流」と呼ばれるこの講師育成コースは、文部科学省から受託して実施しているもので、その中心となるのは日本国内で行う講師育成のための研修と、研修生が自国に戻って行うフォローアップ研修。学ぶテーマは原子炉工学、環境放射能モニタリング、原子力/放射線緊急時対応の三つ。10か国からやってきたアジアの研修生は、これらのテーマを6~8週間かけて学ぶ。
研修生は「家族」
私たち人材育成センターの職員らはまず、東海駅(茨城県)で彼らを出迎え、大型スーパーに連れていって数日分の食料品など必要な品物を買いそろえてもらうことを支援する。急病になればもちろん、夜中でも職員は宿舎にかけつける。
カリキュラムは専門家による講義だけでなく、見学や実習、さらには教える練習まで含む。私たち職員らは状況に応じて、その内容が彼らにとって最も望ましいものであるための改善を常に怠らない。
研修の最後には研修生一人ひとりがあいさつをする。なかには職員への感謝のほかに、職員らと離れる寂しさを述べる人もいる。大粒の涙をこぼし、そして言葉を詰まらせながら。
母国で講師に
この研修を終えた研修生は帰国後、母国で自らが講師を務める。フォローアップ研修と呼ばれるこの過程は、一人前の「先生」に成長するための重要なステップで、これを経た彼らは本格的に、自国の人材教育にあたる。2017年度末までにこの講師育成に参加したのは累計364人、フォローアップ研修で授業を受けたのは累計で4467人。講師育成研修を終えた「新米」の「先生」一人が、12人を教えた計算になる。