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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第46回 産学官で技術を橋渡し

研究連携成果展開部長
宮川 明(みやかわ あきら)
掲載日:2019年1月11日

施設供用、知的財産管理、研究開発成果情報の発信、学術情報の収集・提供といった支援活動を通じ、原子力機構と産学官の連携を行う「橋渡し」の場を展開している。スタッフはホスピタリティにあふれ、いつも皆さんのお役に立ちたいと考えている。

異分野に活用

原子力機構のミッションは「原子力の未来を切り拓き、人類社会の福祉に貢献する」ことである。皆さんは「原子力」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。原子力発電や安全性に関する研究などはもちろんだが、原子力機構の研究開発活動を通じて獲得した知見・技術は、意外にも異種・異分野でも活用できるものが多くある。

もともと原子力は複合技術の集合体であるため、個々の要素技術は非常に多岐にわたっているのだ。このような原子力機構のシーズを、皆さんのニーズと結び付けていきたい。

業種や分野に関係なく、我々の技術を活用してくれるパートナーを見つけ出し、実用化に向けた共同研究などに発展させる「橋渡し」が、原子力機構の産学官連携活動の一つである。2018年8月に開催した「JAEA技術サロン」は、産業分野へ応用可能な技術を研究者自らが説明し、外部有識者とともに、その成果をどのように社会に還元し、実用化していくかを話し合う場として設定した。

その結果、今まで取引のなかった意外な企業からも技術相談が寄せられるようになった。研究者が自分では気付かないような応用分野がまだまだあるのだ。ここでは多様な可能性のある原子力機構の技術の中から、「エマルションフロー法」を紹介する。

溶液から分離

エマルションフロー法とは、溶液の中に溶けている特定の成分を化学的に分離する方法の一つである。原子力機構が開発したこの方法では、分離する成分と結合する油のような溶媒を使うことで、装置に溶液を通すだけの簡単な操作で、素早く水と分離することができる。外からほとんど力を加える必要がないため、従来の液液抽出の方法と比べ格段に安いコストと最高の性能を実現した。

エマルションフロー法はもともと、放射性物質の分離に関する研究の中で偶然に発見された新しい技術である。しかしながら原子力分野に限らず、廃液からのレアメタルの分離回収、工場廃液の浄化など、さまざまな産業分野で応用可能であるため注目を集めている。

例えば日本カニゼンでは無電解ニッケルメッキ廃液からニッケルを回収・リサイクルするための実証プラントを、アサカ理研では光学レンズ廃材からレアアース(希土類金属)を高純度で回収するための実証プラントを構築し、商業化に向けて試験を進めている。また、すでに商業化を実現し収益を上げている大手金属関連企業もある。

HPで紹介

原子力機構には原子力分野で役立つのはもちろんのこと、このほかにも異種・異分野で活用可能な技術があり、その代表的なものはホームページでもわかりやすく紹介している(「JAEA技術シーズ集」で検索)。「原子力」という言葉に先入観を持つことなく、ぜひ一度ご覧いただきたい。豊かな未来社会の実現に向け、さまざまな分野で皆さんと一緒に技術の有効活用を考えていきたい。