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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第45回 核鑑識テロ防止に貢献

核不拡散・核セキュリティ総合支援センター
技術開発推進室 研究員
木村 祥紀(きむら よしき)
掲載日:2018年12月28日

大学院にて、プルトニウムの核拡散抵抗性(兵器転用のしにくさ)評価手法に関する研究で学位を取得。在学中より核不拡散・核セキュリティ分野を専門として、2012年より現職で核鑑識技術開発に従事。同分野において、唯一の被爆国として国際社会での日本が存在感を一層高められるよう、国内での研究開発コミュニティを活発にしたいと考えている。

「指紋」を分析

核鑑識とは、犯罪行為やテロ行為などの現場で押収された核物質や放射性物質の出所や経緯を分析によって明らかにする技術である。いわゆる指紋やDNAの鑑定など伝統的な鑑識に対して、核物質にかかわる鑑識なので核鑑識と呼ばれている。

核物質または放射性物質を使ったテロがひとたび発生すれば甚大な被害が及ぶ。何としても核テロの発生は防止しなければならない。核鑑識は押収した核物質の分析により出所を明らかにすることで核テロ行為を未然に防ぐ技術ともいえる。

最先端の技術

2010年の第1回核セキュリティサミットで、日本は核鑑識技術開発に着手し成果を広く使えるようにして国際貢献をすることをコミットした。その技術を担当したのが原子力機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センターである。

同センターでは質量分析法を用いて核物質の同位体や不純物を分析する技術や、電子顕微鏡を使って粒子形状や微細構造を分析する技術、核鑑識ライブラリと呼ばれる核物質のデータベースとデータ解析技術などの基礎的な核鑑識技術を開発。米国や欧州との共同研究や国際共同分析比較試験、演習を通して、各国から高い核鑑識分析能力をもっているとの評価を得ている。

また、放射性核種の量を分析するために通常用いられるスパイクと呼ばれる物質の添加を必要としない新しいウラン年代測定手法(ウランをいつ精製したかを明らかにする分析手法)を世界に先がけて開発し、電子顕微鏡画像のコンピュータ解析による迅速な粒子形状分析技術など、より迅速で高精度な分析技術を開発し、国際的な核鑑識技術の向上に貢献している。

実用化急務

2019年には天皇陛下のご退位、ご即位、大阪でのG20やラグビーのワールドカップ、2020年には東京オリンピック・パラリンピックなど世界中が注目する大規模なイベントが目白押しであり、何としても、核・放射線テロを防止していかなければならない。核鑑識技術はこれらのテロ防止に大きく貢献するものである。

今後は大規模イベントなどを念頭に、核・放射線テロ事案の対応に資する核鑑識技術の開発、客観的かつ迅速に判断するために人工知能の導入などの新しい技術を積極的に取り入れた研究開発を行う予定である。また、警察をはじめとした関係機関との連携強化や人材育成など、核鑑識の社会実装に向けた取り組みも行い、より安全で安心な社会の実現に一層貢献することを目指している。