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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第44回 原子力防災研究の魁を目指して

安全研究・防災支援部門
原子力緊急時支援・研修センター長
田中 忠夫(たなか ただお)
掲載日:2018年12月21日

原子力緊急時支援・研修センターは、災害対策基本法などに規定された指定公共機関としての原子力機構の活動拠点である。東京電力福島第一原子力発電所事故を教訓として見直された原子力防災や原子力災害対策の下、わが国の原子力防災体制の強化に欠かせない研究開発と研修の中核になれるよう取り組んでいきたい。

当日に福島へ

2011年3月11日午後に、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故が発生。その日の23時に、東海村にある原子力機構の緊急時・支援センター(NEAT)には7人の放射線モニタリング専門家が集まった。

防衛省のヘリコプターで現地に向かったその7人は、翌日早朝から放射線モニタリング測定を開始。これに続いて原子力機構は、放射線測定器を搭載した特殊車両の派遣、住民の一時立ち入り支援、住民からの電話相談を始めた。

さらにNEAT自体が大震災の影響で停電だったにもかかわらず、非常用電源や非常用の通信系統を駆使して、これらの支援活動を総括。事故直後から不夜城となった建物の中で、職員たちは殺到するタスクをこなし続けた。

このNEATが発足したのは2002年3月。1999年9月に東海村で発生したJCO臨界事故を教訓とし、緊急時に原子力の専門家を結集して適切な支援を行えるように組織されたのが、その始まりだ。その支援活動が初めて本格的に現実化したのが、2011年の1F事故対応の時だった。

技術面で支援

1F事故の教訓や国内外の指摘を踏まえて、原子炉施設などの新規制基準や原子力災害対策指針が新に策定された。これを踏まえて国や地方自治体、原子力事業者は原子力防災に関する計画などの強化を進めている。NEATでは、これらの原子力災害対策がより実効的なものになるよう、技術的な支援を行っている。

具体的には緊急時航空機モニタリング支援体制の整備、新たに導入された防護区域や防護対策の有効性の評価などに関する研究、原子力災害対策本部や被災地で緊急時に活躍できる人材を育成するための研修が、それである。

実効性向上

日本ではこれまで放射線防護、被ばく評価、放射線計測などの研究分野はあったが、万一の事故が発生した時を想定した体制や実際の運用などを含む総合的な観点からの“原子力防災”という研究分野はなかった。このため私たちは、原子力防災や災害対策をめぐる知見を包括することで、その実効性向上を目指している。

さらに原子力防災の高度化を図るために、事前に備えておくべき対策に関する基準や防護措置のあり方を具体化するために必要となる研究や技術開発課題を整理した“原子力防災研究マップ”の整備を進めている。このマップを共創の場とし、さまざまな分野で防災に取り組んでいる専門家が原子力防災に向けた強い目的意識をもって研究に取り組めるようにするとともに、国や地方自治体の要望に耳を傾け、より実効性のある防災や災害対策に貢献する原子力防災研究を創成していきたい。

なお、原子力防災や原子力災害対策についての取り組みは、原子力災害に備えておくためのものである。その備えが活用されることがないことこそが、私たちの切なる願いである。