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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第43回 原子炉が暴走した時に燃料はどうなる?

安全研究・防災支援部門
安全研究センター原子炉安全研究ディビジョン長
天谷 政樹(あまや まさき)
掲載日:2018年12月14日

NSRRは、原子炉で使われる燃料の安全性を調べる実験ができる世界屈指の試験用原子炉の一つであり、このNSRRを使って得られた研究成果は日本のみならず世界の原子力発電所の安全評価に利用されてきた。今後も研究を積極的に進め、原子力発電所のより一層の安全性向上に貢献していきたい。

出力急上昇実験

その製品はどこまでの負荷や衝撃に耐えられるのか。これを調べるために、自動車をわざと壁に激突させて壊し、乗員に見立てた人形の無事を確認する実験を行うことがある。その製品の安全性を考慮した設計を行うためには、その製品に求められる健全性の限界を知らなければならない。壊す実験は、そのための有効な手段の一つだ。

原子炉の燃料も同様である。原子力発電所の安全性を確かめるため、制御棒が炉心から急速に引き抜かれ原子炉の出力が急上昇する「反応度事故」を想定した評価を行う。では、反応度事故の時に原子炉の中の燃料はどうなるのか。これを知るための実験を行うのが、原子力機構原子力科学研究所にある原子炉安全性研究炉(NSRR)だ。

このNSRRでは、反応度事故を模擬した極めて高いパルス状の出力を意図的かつ安全に作り出せる。

実験燃料をカプセルに封入して炉心に装荷し運転することで、原子力発電所で使用される燃料が反応度事故の時に壊れる条件や燃料が壊れた時に原子力発電施設に及ぼす影響を調べる。

40年越す歴史

このNSRRは1975年6月に初臨界を達成。原子力発電技術の進展にあわせ、昭和の年代には新品の燃料を、平成に入ってからは原子力発電所で長期使用された燃料を主な研究対象としてきた。40年以上にわたって行われてきたこれらの研究の成果は、日本の原子力規制行政に必要な技術的知見となり、燃料が関係する規制基準の策定に大きく貢献している。

NSRRは2014年11月にいったん運転を停止し、新規制基準をふまえた上で、2018年6月に運転を再開した。運転再開時には、パルス運転で発生した放射線がプール内の水と反応する際に発生するチェレンコフ光で、炉心が鋭く光った。

世界をけん引

福島第一原子力発電所事故以降、原子力発電所の安全性向上が求められ、燃料については従来に比べ燃料被覆材の耐腐食性を向上させるなどした燃料の研究開発が進められている。このような燃料が反応度事故時にどのような振る舞いをするのか。そのデータを得られる試験用原子炉は現在、世界的にNSRRをはじめ数えるほどしかない。私たちは今後もNSRRなどを用いて燃料の安全性に関する研究を世界的にけん引し、その研究成果をこれからの原子力発電の安全確保のために外部に発信していく。

また、原子力発電所のさらなる安全性向上には、事故時の燃料や原子力発電所の振る舞いを推理できる人材が欠かせない。NSRRを用いた実験などを通してこのような人材を育成することも我々の年代に課せられた大切な使命である。