原子力機構HOME > 原子力機構の“いま-これから” > 第39回 「高速炉用MOX」の物性を調べる

原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第39回 「高速炉用MOX」の物性を調べる

プルトニウム燃料技術開発センター
燃料技術部 燃料技術開発課
研究主幹 森本 恭一(もりもと きょういち)
掲載日:2018年11月16日

現在、再処理後の廃液中にある核種の一部を燃料に混合し、高速炉で照射することで減容することが考えられていますが、燃料としてMA含有MOXを実用化するには、その物性を評価し特性を把握する必要があります。私たちはプルトニウム燃料技術開発センターに整備されている装置を駆使して、新たな燃料の開発に貢献したいと考えています。

溶融させない

高速炉では燃料として主にウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX燃料)を使う。なお、高速炉は軽水炉より構造上、炉心溶融を起こしにくい。冷却材であるナトリウムが高圧ではないため喪失しにくいこと、事故時の温度上昇が緩慢であることなどが、その理由だ。

一方でMOX燃料自体にも、溶融しないようなさまざまな対策が施されている。その研究に取り組んでいるのが、核燃料サイクル工学研究所のプルトニウム燃料技術開発センターである。

同センターではまず、MOX燃料の融点、熱伝導率、熱膨張率などさまざまな物性値を調査。さらにMOX燃料が炉内でどう挙動するかをシミュレーションや実機を使って評価し、そのデータを蓄積してきた。

例なき研究

「もんじゅ」は長期間停止していたため、MOX燃料中の一部のプルトニウム241が時間の経過とともにアメリシウム241に変化した。このため同センターでは、アメリシウムの増加がMOX燃料の物性にどのような変化を与えるかという、世界でも例のない研究に取り組んだ。

しかし、研究テーマの一つである融点を従来の方法で測定しようとすると、測定中にMOXとこれを封入した容器が反応するという問題があり、信頼性の高いデータを取得することができなかった。さらに、MOXの融点は2500度Cを超える。融点が高いことは炉心溶融を起こしにくいという利点となるが、このような超高温測定を行うために装置の構造や構成材料を変更することは困難であり、問題となっている反応が抑制できる試験体系を考案することは非常に難しかった。

このため同センターでは試行錯誤を繰り返し、レニウムという希少金属で製作した容器を通常の容器の内側に追加することによってMOXとの反応を抑制した融点測定に成功した。さらに、これまでに示されてきた測定値はこの反応によって正確な値よりも低い値になっていたことを突き止め、信頼性が大幅に向上した試験体系でアメリシウムの影響を明確に示すことができた。ここで得られたデータは世界に先駆けた新しい知見となり、国内だけでなく、海外の高速炉燃料研究などさまざまな場面で引用されている。

減容のカギ

ウラン資源の枯渇や、軽水炉から発生する放射性廃棄物の蓄積などの問題から、世界的にはナトリウム冷却の高速炉は次世代炉の有力な候補となっている。この一つに高レベル放射性廃棄物の減容化の手段として、長期間放射線や熱を発生するマイナーアクチニド(MA)を燃料に混合し、高速炉で燃焼させてMAの総量を減らす研究が進められている。

同センターでは高速炉内でのMA含有MOX燃料の挙動を評価するため、これらの物性値へのMA含有の影響についてもいち早く評価を進め、データの取得を続けている。得られたMOX燃料やMA含有MOX燃料の物性データはデータベースとしての体系化を進めており、シミュレーションなどへ反映することによって炉内の燃料挙動をより正確に予測することを目指している。