原子力機構HOME > 原子力機構の“いま-これから” > 第38回 長半減期核種を吸着材で分離

原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第38回 長半減期核種を吸着材で分離

核燃料サイクル工学研究所 環境技術開発センター
再処理技術開発試験部 研究開発第1課
研究副主幹 渡部 創(わたなべ そう)
掲載日:2018年11月9日

原子力機構に入って初めてMA回収の仕事に従事し、本研究を通じて国内外を問わず非常にたくさんの協力者、友人をつくることが出来た。これからもこれまでに培った人間関係を大事にしながら、どんどんと研究領域を広げていきたい。

数百年に短縮

高レベル放射性廃液は何万年もの間、強い放射線を出し続ける。しかし、アメリシウムなどの特定元素(マイナーアクチニド<MA>)を除くと、数百年でその放射線はごくごく小さくなる。このため半減期が長く放射線が高いMAを回収し、それを高速炉で燃やせば、高レベル放射性廃棄物処分の負担を大幅に小さくすることができる。ここで課題となるのが、高レベル放射性廃液からMAを分離する方法だ。

この分離には、イオン交換樹脂などの吸着材を用いる。本連載20回の記事では吸着材の微細粒子表面に抽出材を塗布することで、高レベル放射性廃液からMA元素をグラムオーダーで回収できたことを紹介した。

抽出材2種混合

私たちはさらに、クロマトグラフィと呼ばれるこの方法の回収効率を上げるために、吸着材自体の改良に着目。大学やメーカーと共同で研究を進めた結果、抽出剤の利用効率を上げることがパフォーマンスの向上につながることを突き止めた。

また、2種類の抽出剤を組み合わせるという今までに例のない吸着材を製作。その結果、抽出剤同士の相乗効果が生まれ、先に紹介した方法より効率的なMA回収プロセスを提案することができた。

私たちはこのほかに、MAの抽出速度と選択性の両方に優れた新たな抽出剤の利用も進めている。これらを用いた吸着材には、普通の溶媒抽出では発揮しない特異な吸着性能を示すものがあることを発見。この特性を利用し、レアメタルであるスカンジウムを高純度で選択的に回収するプロセスを開発することにも成功した。

着実に実用化

抽出クロマトグラフィの再処理プロセスへの適用は、有機化合物が放射線で劣化するために取り扱いが難しいことや、吸着材の母体となる素材の最適な組み合わせを見付けることの困難さなどから、海外での取り組み事例はわずかしかない。その中で私たちは、この技術の実用化を着実に進めている。

また、この方法は含侵させる抽出剤を変えることで、機能が異なる吸着材を調製できる特徴をもつ。このため、MAに限らずさまざまなターゲットを効率的に回収することも可能だ。私たちが現在、進めている放射性廃液に含まれる反応性化学物質を安定化するというプロジェクトでは、複雑な組成をもつ液体から特定の化学種を分離するのが難関となっているが、ここで開発した抽出クロマトグラフィ技術の適用が打開策となることが期待できそうだ。