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原子力機構の“いま-これから”
日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中第35回 ペレトロン年代測定装置と年代測定手法の高度化への挑戦
より正確に
東濃地科学センターでの私たちの仕事は、時代を超えたメッセージを解読する研究である。「この地層はいつできたのか?」「この地下水はいつからここに滞留しているのか?」などの謎を、ペレトロン年代測定装置と呼ぶ加速器質量分析装置を使って推定する。
加速器質量分析法(Accelerator Mass Spectrometry; AMS)は、炭素-14、ベリリウム-10、アルミニウム-26などを用いた年代測定に使われている。しかし、ベリリウム-10とホウ素-10のように同じ質量をもつ核種を同重体というが、加速器質量分析法では、対象となる核種と同重体のスペクトルが似ている場合に両者の区別ができにくくなるため、正確な分析ができないという難点があった。 このため私たちは、より正確な年代測定を行うために、同重体を分別できる小型の装置の開発を目指した。
特許を出願
この開発を行う中で、物理の基礎研究で知られているコヒーレント共鳴励起(Resonant Coherent Excitation; RCE)を利用した特許を出願した。RCEとは荷電粒子が結晶性薄膜にある原子核の隙間を通り抜ける(イオンチャンネリング)際に荷電粒子が周りの電子をはがすために、核種によって異なる電荷になる現象であり、これを同重体分別に利用することを思いついた。
このアイデアについて当施設の装置を使って実証試験をいざ始めてみると、これまでの電圧でRCEを鮮明にするためには30ナノメートル(ナノは10億分の1)まで結晶性薄膜を薄くする必要があることがわかった。特許公開までにこの実証試験で一定の成果をあげることを目指したが、結晶性薄膜で30ナノメートルの薄さは世界でも例がなく、それを製造するためには相当の時間がかかることがわかった。
このため私たちは、既存の200ナノメートルの結晶性薄膜を使ってイオンチャネリング技術の開発を進めることにした。すると、思わぬ収穫を得た。結晶性薄膜をチャンネリング状態にして荷電粒子を通したところ、スペクトルが対象となる核種と同重体では異なり一部の同重体を分別できることがわかったのである。これをもとに新たな特許出願を行うことができた。
ユーザー拡大
今、私たちは、AMS測定の高精度化と装置の小型化を可能とする特許出願内容の技術を手にし、この技術を使った装置の製作を始めた。小さく使い勝手の良くなった装置を完成させ、今まで以上に身近なものとして普及させ、AMSユーザーを拡大していくことが、今の目標である。