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原子力機構の“いま-これから”
日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中第29回 大強度陽子加速器で未来を拓く
普遍的な問い
我々はどこから来て、何者であり、そしてどこに行くのか?
ゴーギャンの代表作にパノラミックに描かれた普遍的な問いに対して、人類は有史以前から様々な形で解答を求め続けてきた。その飽くなき探求が、芸術、宗教、哲学、そして自然科学を生み出し、現代の文明と文化の基盤となっていると言っても過言ではない。大強度陽子加速器施設J-PARCは、この普遍的な問いに、最新の科学技術を使って科学の観点から解答を与えようとする研究施設だ。
茨城県東海村にあるこの施設では、この世界を形づくるもっとも基本的な原子核である陽子を、光速近くまで加速して、炭素や水銀などの標的に照射し、中性子やミュオン、K中間子、そしてニュートリノといった2次粒子を使った研究を行っている。その研究テーマは多岐にわたるが、それらは宇宙や物質、生命の始まりに迫るカギを握っているのだ。
小さな一点起源
宇宙は約138億年前に、ごくごく小さな一点から始まったと考えられている。現在も膨張を続ける宇宙を時間的にさかのぼると、ビッグバンという“原点”にたどり着く。ビッグバンが起きた当初は、我々を含む全ての物質の素、素粒子であるクォークや電子たちが超高温の中で自由に飛び回っていた。
その後、宇宙が膨張するにつれて温度が徐々に下がり、クォークたちは3つ一組で、陽子と中性子の中に閉じ込められた。それらが組み合わされてさまざまな原子核が、さらに電子を周りにまとって原子が生み出され、それらが集まってさまざまな天体が形成された。
その天体の一つが地球であり、その上で多種多様な物質や生命が育まれ、現在に至る。その地球に、約200万年前に現れた人類は文明を生み出し、科学技術を手にして、今や新しい物質を生み出し、生命の神秘にもたどり着こうとしているのである。
謎をひもとく
こんな壮大な宇宙・物質・生命の発展のドラマに隠された謎を、J-PARCでは一つひとつひもといている。
素粒子の性質には量子的な効果を通して、宇宙初期に存在したありとあらゆる相互作用と粒子が今も影響を与えている。つまり“素粒子に宇宙の歴史が刻まれている”わけだ。
私自身、一介の研究者としてこれまで進めて来た大小の国際共同実験で培った経験を生かし、J-PARC全体で取り組む素粒子から生命科学にいたる広範なサイエンスプロジェクトの推進に注力している。
J-PARCは原子力機構と、つくば市に本拠地を構える高エネルギー加速器研究機構(KEK)が、共同で建設し運営している研究施設である。人類の究極の問いに科学の側面から解答を与え、さらに新しい物質の発見を通して、人類の豊かな未来に貢献することを目指して繰り広げられている研究の一端を、読者の皆さんと分かち合えれば幸いである。