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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第28回 脱炭素化と水素社会を実現

大洗研究所 高温ガス炉研究開発センター 
水素・熱利用研究開発部 研究主席
久保 真治(くぼ しんじ)
掲載日:2018年8月31日

食糧、水とならび、エネルギーの確保は、我々の生存にかかる根幹の問題。先の震災の時、ガソリンスタンドの長蛇の列に並びながら身をもって学んだ。安全な原子炉と水素エネルギーの研究開発を、我が国のエネルギーセキュリティ向上に継げていければと思う。

中心的役割

「将来の2次エネルギーでは、電気、熱に加え、水素が中心的役割を担うことが期待される」―。7月に策定されたエネルギー基本計画では、将来の水素社会実現に向けこう記載した。連載で紹介してきた高温ガス炉は、この水素社会の到来へ大きく寄与することが期待されている技術でもある。

1次エネルギーとは石油や石炭、原子力、水力など自然から得られ変換・加工する前のエネルギーだ。私たちはそれを、電気や都市ガスなどの使いやすい形態の2次エネルギーに変換・加工して利用している。そして水素は、1次エネルギーから作られる2次エネルギーである。水素の持つ優れた特徴の一つ目が、さまざまな1次エネルギーから作ることができる点にある。安価で多様な資源から水素が作れれば、コスト削減とエネルギー調達先の多様化をもたらし、エネルギーセキュリティの向上を図ることができる。

二つ目の特徴が、利用時に二酸化炭素を発生しないことだ。これによって環境保全に貢献できる。日本は水素利用に関する高い技術力を持っており、これによって我が国の国際的な産業競争力の向上を図ることができる。

この水素社会を実現するための重要な課題の一つが、どのようにして水素を製造するかだ。水素は単体ではほとんど存在しない。このため化石燃料を分解して水素を取り出すことが、一般的に行われているが、この方法だと、製造時に二酸化炭素が発生する。これでは水素社会が実現しても、二酸化炭素の発生量を減らすことができない。

水から製造

この問題は、1次エネルギーに原子力を用い、水を分解して水素を製造すれば解決できる。原子力機構は高温ガス炉で発生する高温ヘリウムガスの熱エネルギーを利用し、化学反応を用いて水を分解して水素と酸素を取り出す熱化学水素製造法に着目した。

水をヨウ素(I)や硫黄(S)の化合物と化学反応させるISプロセスを使えば、高温ガス炉にマッチした900℃の温度で水素を製造できる。この方法の課題である腐食性の強い硫酸などの化学物質を高温域で使用しなければならない点は、耐食性や耐熱性を大幅に強化し工業材料製の機器で構成され世界でも例の少ない水素製造装置を開発することで克服、2017年10月の試験運転では、毎時20リットルの水素を31時間連続で製造することに成功した。

知恵を結集

このプロセスで用いられる強腐食性物質を取り扱う機器の工業材料化には手本がなく、原子力機構がもつ多様な工学分野の専門家や化学工学にたける産業界の知恵を結集して課題解決に取り組んでいる。原子力機構は将来、HTTRにガスタービン発電施設と水素製造施設を接続し、コージェネレーション熱利用技術を実証することを目標にしている。

水素社会の実現は、すでに射程に入っている。