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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第27回 高温ガス炉の要となる黒鉛 その製造でトップを走る東洋炭素

東洋炭素株式会社 原子力室室長
山地 雅俊
掲載日:2018年8月24日

これまで30年以上に渡り原子力機構殿が主導する高温ガス炉の開発計画に携わってきた東洋炭素の一員として、他国の後塵を拝することなく国産技術を使った実用炉の実現を願ってやまない。

多様な熱利用

炉心溶融の危険性が極めて低く多様な熱利用が可能な高温ガス炉。その性能の重要なカギを握るのが、減速材に使用される黒鉛だ。このためHTTR(高温工学試験研究炉)では、等方性で均質であるとともに、高温重照射下でも構造安定性に優れる微粒等方性黒鉛IG-110を採用している。このIG-110黒鉛を製造しているのが、大阪市に本社をもつ東洋炭素。等方性黒鉛の生産において、世界シェアの3割を占めるトップ企業でもある。

黒鉛材料の選択は炉の性能と安全性を左右する。東洋炭素が世界に先駆けて等方性黒鉛の量産技術を確立したのは、今から44年前の1974年。70年代後半には原子力機構に人材を派遣し、30年以上にわたって15人が研究に参画し、三つの量産化技術を確立した。

量産化技術

第1は、「大型材の量産技術の確立」である。約1000度Cの出口温度を達成するためには大型材料が必須だったが、当時作製できる限界は直径40センチメートル程度。そのため粉体制御や熱処理に工夫を加え、世界に先駆けて直径1メートルの大型材の量産製造に成功した。

第2は、「世界最高水準の品質安定性の確立」である。黒鉛材料はもともと材料特性に大きなバラつきがある。これを均質化するため、原料粉体と熱処理工程での徹底した品質管理により、世界最高水準の品質安定性を実現した。

第3は、「大型材の超高純度化処理技術の確立」である。黒鉛材料の最大の欠点が酸化による強度低下だ。この酸化反応を抑えるため、ハロゲン系ガスによって超高純度化処理技術を確立した。

世界をリード

黒鉛材料を原子炉で用いる際に課題となったのは、日本工業規格(JIS)などで詳細が規格化されていなかった点だ。そのためIG-110黒鉛の照射データを含む特性取得、そのデータ解析などから炉心設計、国の安全審査に係わる黒鉛検査基準といった全ての規格・基準類をゼロから策定した。

また、建設時には数十回に及ぶ国の使用前検査が実施されたが、全てが未経験であり原子力機構を中心に、日夜その対応に明け暮れた。それだけに、製造から製品加工、そして使用前検査までの一貫した貴重な知見、高度な製造技術の蓄積は、東洋炭素の強みとなっており他社の追随を許さない。

IG-110黒鉛は、現在稼働・建設中の高温ガス炉用構造物に世界で唯一採用されている材料だ。東洋炭素は高温ガス炉の実用化に向け、さらなる材料の大型化や安価な高純度化技術の確立に取り組んできた。今後、高温ガス炉を巡る世界的に熾烈な開発競争の中で、知的財産権を守りながら国産技術を使った新型炉の実用化に向け、これからも原子炉用黒鉛の材料メーカーとしての地歩を固めて行く。