- 原子力機構の“いま-これから”
- テーマ別一覧
原子力機構の“いま-これから”
日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中第26回 高温ガス炉の多様な産業利用
固有の安全性
万一の事故の際にも、原子炉の炉心が溶融しない。高温ガス炉の最大の特徴は、その固有の安全性にある。その安全性のしくみについては、前回紹介した通りだ。
高温ガス炉のもう一つの特徴は、950度Cという高温のヘリウムガスを利用できることにある。これによってさまざまな産業利用が期待される。今回はそれらについて紹介しよう。
高温のヘリウムガスを利用できる最大利点の一つは、水を分解して水素を製造できる点にある。我が国では将来、水素社会が到来することが期待されているが、今は化石燃料を原料として水素を製造するのが一般的だ。この方式だと水素社会が実現しても脱炭素化が実現できない。
原子力機構ではこのため、ヨウ素と硫黄を用いて高温ガス炉にマッチした温度レベルで水を分解して水素を製造する原理を世界で初めて実証した。これによって本当の意味で脱炭素化と水素社会を実現する見通しを示した。これについてはのちの連載で、詳しく紹介する。
高い熱効率
また、ヘリウムガスがもつその高温熱は、多様な産業分野で利用することができる。軽水炉の原子炉出口温度は300度C前後で、それによる蒸気タービンによる発電の熱効率向上は35%が限界に近い。しかし950度Cのヘリウムガスでガスタービンを直接駆動すれば、50%もの熱効率で発電が可能となる。また、高温熱やこれを利用して製造した水素は直接還元法による製鉄にも利用できる。400~600度Cの熱は石油化学プラントに、200度Cの熱は地域暖房や海水淡水化に利用できる。このように温度レベルに応じて熱を段階的に利用することでさらに効率的な熱利用も可能だ。
日本が高温ガス炉の試験研究炉であるHTTRの建設や運転を通して蓄積した高温ガス炉技術は、世界最高水準にある。高温ガス炉は熱利用が可能でかつ、炭酸ガス排出を削減できること、さらにはその安全性の高さのために、欧米や中国をはじめとして世界各国で導入検討が進んでいる。なかでも中国は特に熱心で、2019年中の運転開始を目指して、電気出力200MWの実証炉建設を進めている。さらにはこの経験を活用した商用炉建設プロジェクトを立ち上げている。
国際協力推進
一方、原子力機構は、日本の高温ガス炉技術の開発加速のための国際協力を積極的に進めており、特にポーランドとの協力に力を注いでいる。同国ではエネルギー供給について石炭への依存度が高く、その代替に高温ガス炉導入を計画し、2050年までに国内で数十基の需要を見込んでいる。
原子力機構では今後、ポーランド国立原子力研究センターの研究資産や技術を相互に活用して設計や燃料・材料の照射特性評価技術の開発協力を進めるとともに、国産高温ガス炉技術の発展や国際標準化を進め、産業界と協力して原子力新興国への高温ガス炉技術の輸出を図るとともに、地域とも連携して、国内での高温ガス炉の実用化に貢献していく。