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原子力機構の“いま-これから”
日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中第25回 固有安全性をもつ高温ガス炉
海外の事故契機
スリーマイル島2号炉やチェルノブイリ4号炉の事故を契機に、格段に高い安全性を持つ原子炉が注目された。加えて、化石燃料に代わる高温供給源として温暖化を抑制できる原子炉が期待された。これら二つを兼ね備えると期待される高温ガス炉の研究は既に始まっていたが、その実現に向け研究者たちの思いはさらに強まった。
高温ガス炉は、その名の通り1000度C近い高温のガスを取り出せるので、水素製造や熱効率が高いガスタービン発電ができるほか、工業や地域暖房など多目的熱源として利用でき二酸化炭素排出削減に貢献できる。
研究者たちの思いを、東京電力福島第一原子力発電所の事故で今度は世界が共有しはじめる。この事故では炉心が溶融し、放射性物質が広く環境中に拡散した。万一の事故の際にも炉心が溶融しない固有の安全性をもった高温ガス炉に世界が注目しはじめた。
冷却停止も可能
高温ガス炉は、燃料にセラミック被覆燃料粒子、減速材と炉心構造材に黒鉛、冷却材にヘリウムガスを使用している。セラミック燃料は耐熱性と閉じ込めに優れる。減速材となる黒鉛はこのために開発された特殊なもので耐熱性・伝熱性が高いだけでなく酸化速度が極めて低い。何より万一の事故時でも溶ける心配がない。ヘリウムは不活性なので、事故時でも化学反応が起きない。
これらの材料により、電源喪失や一次系冷却配管が破損する事故が起きた場合でも、燃料が溶けだすことなく、また原子炉の熱は黒鉛を介して炉外に伝わり自然放熱で冷却される。そこでは機器の作動や運転員の操作は必要ない。固有安全炉と言われるゆえんが、ここにある。
原子力機構の前身である日本原子力研究所は、大洗にHTTR(高温工学試験研究炉)を建設し2004年、世界初の950度Cのガス取出しに成功した。原子力機構となってから、この優れた安全性を実証する試験を実施した。試験では電源喪失を模擬し、9メガワットでの運転中に燃料を冷却するヘリウムを循環させるすべての循環機を停止。さらに、原子炉停止に用いる制御棒をあえて挿入しなかった。2010年、このような過酷な状況においても原子炉の出力は自然に低下し安定することを確認した。高温ガス炉の熱で二酸化炭素が出ない水素製造システムが可能になる。この画期的なシステムについては次回述べる。