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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第23回 最新のレーザー応用技術を身近なものに

高速炉・新型炉研究開発部門
敦賀総合研究開発センター レーザー・革新技術共同研究所
次長 村松 壽晴 (むらまつ としはる)
掲載日:2018年7月20日

当機構敦賀地区でのレーザー応用研究は、研究所設立当初から、「複雑なシステムをより簡便に」を合言葉に、産学官連携協力を柱として活動を進めてきています。これは超スマート社会を目指す国の目標(ソサエティー 5.0)を実現するための要素技術の一つでもあります。原子力技術と一般産業技術との接点、これを念頭に研究所運営を進めていきます。

新たな段階に

アインシュタインは1917年に、のちのレーザー発振の礎となる誘導放出の理論を発表する。それから100年が過ぎ、レーザー光を熱源とした利用が、多くの産業分野で進められてきている。

しかしながらその利用は、熟練者の豊富な経験や勘に支えられているのが実状だ。そこでは熱加工を行う場合のレーザー出力はどう設定すべきか、加工速度はどうあるべきかなど、様々な設定パラメータの組み合わせの適切化が求められる。

これを非熟練者が道具として簡単に使えるようになれば、レーザー熱加工は産業界に浸透する新たな段階に入る。

レーザー・革新技術共同研究所では2009年の設立当初より、レーザー熱加工に対する「適応制御機能」や「レーザー熱加工シミュレーション」の開発を進めてきた。「適応制御機能」の研究開発では、加工対象物の形状、材質、加工性能などを各種センサーで認識することにより、レーザー照射条件などを熟練者に代わって自動調整する機能を搭載する装置を世界に先駆けて開発し、福島第一原子力発電所の燃料デブリのような複雑系対象物の取り出し技術としての適用可能性を確認した。

ハードル下げる

他方、「レーザー熱加工シミュレーション」については、レーザー照射による固体金属の溶融・凝固過程を、身近なワークステーションで評価できる計算コードを世界に先駆けて開発し、熟練者に代わって設定パラメータの組み合わせによる特性変化の加工前評価を可能とした。これらは、熟練者の行動をサイバー空間に模倣することでレーザー利用に対するハードルを下げ、レーザー熱加工技術を産業界に更に浸透させる上での重要なステップとなる。

当研究所では、原子力発電所の廃止措置に係る技術について、地域企業、大学、公的研究機関などで生まれた技術を事業化につなげ、これらと連携した技術成果を実証するための施設・設備として、文部科学省の平成28年度補正「地域科学技術実証拠点整備」公募事業に採択されたスマデコの整備を完了し、本年6月16日の開所式をもって本格運用を開始した。

スマデコで実証

同設備では、「適応制御機能」を搭載した3本のロボットアームから成るシステムと「レーザー熱加工シミュレーション」のコードを格納した10台のワークステーションを設置しており、今後はこれらを利用し、当研究所が築き上げたレーザー熱加工に関する成果の実規模条件での性能を実証していく。またこれらにより、地域企業などの廃止措置事業への参入を的確にサポートし、廃止措置ビジネスの確立と関連企業群の技術力強化を支援していく。