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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第21回 世界の高速炉開発を牽引する日本

高速炉・新型炉研究開発部門
国際・社会環境室長 中村 博文 (なかむら ひろふみ)
掲載日:2018年7月6日

日本のみならず世界の人々に受け入れられ役に立つ高速炉サイクルの技術体系を構築すべく仲間でありライバルでもある世界の研究者、技術者たちとの協力を進めています。

初期からの目標

「炉心燃料が溶けるような過酷な事故が発生しても、放射性物質が環境に放出されないよう閉じ込める」。これは原子力機構のナトリウム冷却高速炉開発の初期段階から掲げてきた目標だ。福島第一原子力発電所事故を受け、その目標達成は原子力機構にとっての最重要課題の一つとなった。

燃料集合体は何度Cで溶けるのか。溶融した燃料はどのように流れるのか。溶けた燃料が集まることによって起こる再臨界事故を防ぐためにどうしたらよいのか。理論と数値計算により模擬することはできても、これを確認するには実際に燃料集合体を溶かしてみるしかない。

EAGLEと名付けられたカザフスタン共和国と日本の高速炉炉心安全性実験プロジェクトは、1995年に開始された。カザフスタン共和国国立原子力センター(NNC)が持つ実験用原子炉施設で燃料集合体規模の高速炉燃料を溶かし、そのふるまいを把握する一大プロジェクトである。

各国からの賛辞

開始当初、NNCとの話し合いは難航した。双方過去に経験のない実験である。安全性の確保、条件設定、溶かした燃料の分析方法、あらゆる課題が積み重なった。

しかし両国の技術者は、理論を立て、繰り返し計算し、双方の実績を示しつつ共に議論を重ねることでその一つひとつを解決していった。

現在に至るまで続けられているこのプロジェクトは、世界で初めて再臨界事故を防ぐ高速炉設計が可能であることを示した。燃料集合体内に燃料排出用のダクトを取り付けることで、溶けた燃料が炉内にたまり再臨界が起こるのを防ぐことができるのだ。この成果をまとめた論文は米国原子力学会が主催する国際会議において最優秀論文として表彰され、各国からの賛辞を受けた。

安全標準を提唱

「夢の原子炉」と謳われた高速炉技術は、世界を見渡せば現実のものとなりつつある。最も開発が進むロシアは2015年に実証炉BN-800を稼働させた。中国、インドも共に2030年代の実用炉の運転開始を目指し開発を進めている。

仏国もASTRID計画を維持し、米国も今年1月に新たな高速炉型試験炉の設計・建設を目指す戦略を発表した。日本も将来の実用化を見据え、国内外の照射ニーズに応えるべく「常陽」の運転再開の準備を進めている。

世界で高速炉技術が実用化の一途をたどる中、最重要課題とも言えるのが高速炉の安全設計だ。2010年、原子力機構は「もんじゅ」や高速炉の実用化研究開発の経験を基に、その構築を提唱し先導した。結果、「安全設計基準」のベースとなる「安全設計クライテリア」とそれを具体化する「安全設計ガイドライン」が構築された。

これにより、国際標準となる高速炉の安全要求全体系の整備も見えてきた。

日本は「もんじゅ」の廃炉が決まったものの、今もナトリウム冷却高速炉開発における世界の一翼を担い続けるとともに、シビアアクシデント時の安全確保をはじめとして包括的な安全システムの設計面では世界をリードし、安全性に優れた高速炉の実現へ向けて大きな貢献を果たし続けている。