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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第20回 独自性の高い研究への取り組み

高速炉・新型炉研究開発部門
燃料サイクル設計部長 前田 誠一郎 (まえだ せいいちろう)
掲載日:2018年6月29日

原子力利用で発生する使用済み核燃料や放射性廃棄物についてネガティブなイメージがあります。しかし、高速炉サイクルを利用することでそのマイナス面を減らし、資源として利用することも可能となります。私たちは、環境に優しく持続可能なエネルギー供給に貢献するため、高速炉サイクルの実現に取り組んでいきます。

最大の課題

高レベル放射性廃棄物の処分は、原子力が抱える最大の課題となっている。使用済み核燃料を再処理した際に発生する廃液中には、アメリシウム(Am)やキュリウム(Cm)などといった核種が含まれる。マイナーアクチニド(MA)と呼ばれるそれらの核種は半減期が極めて長く、長期間にわたって放射線と熱を出し続ける。そのことが、高レベル放射性廃棄物の処分を難しくしている。

このやっかいなMAを処理する切り札の一つとして考えられているのが、高速炉である。高速炉では、豊富な高いエネルギーの中性子を利用して、プルトニウムなどと同様にMAを核分裂すること、言い換えれば、燃やすことができ、エネルギー源として利用しながらMAを減らすことができる。また、高速炉サイクルの中でMAを循環させて利用し、高レベル放射性廃棄物から発熱量が高いMAを取り除くことで、高レベル放射性廃棄物処分場の廃棄体の間隔を大きく縮めることができ、処分場の面積は大幅に小さくなる。

処分場の放射能が天然ウランと同じレベルになるまでには数十万年かかると想定されているが、人体への有害度の高いMAを取り出せば、それは数百年オーダーにまで短縮される。これらによって高レベル放射性廃棄物処分の負担や将来世代へのリスクを大幅に小さくすることができる。

抽出に成功

これを実現するためにはまず、高レベル放射性廃液中からMAを分離する技術が必要になる。しかし、高レベル放射性廃液の中には、MAと似た化学的挙動を示す希土類元素が含まれることから、MAの分離はたやすくはなかった。

これを可能にするため私たちは、MAを抽出するために多孔質シリカ粒子表面に抽出剤を塗布した吸着材を用いた技術を開発し、これを使って茨城県東海村の高レベル放射性物質研究施設(CPF)において高速実験炉「常陽」の照射済燃料から、グラムオーダーのMAを回収することに成功した。

この照射済燃料に含まれるMAの含有量は全体のわずか1%未満であり、これを高い回収率で照射済燃料から分離回収することは技術的に難しく、世界的に見ても数少ない実績といえる。

さらにMAを含むペレットを作る際に、マイクロ波を使った脱硝・転換に引き続き原料粉の造粒を一元的に処理する技術、金型に直接潤滑剤を塗布するペレット成型技術などを採用することで、製造工程数を大幅に削減するとともに、製造の過程で発生する二次的な廃棄物の発生量を大きく減らす技術開発に取り組んでいる。

有害度低減

私たちは高レベル放射性廃液から回収した上述のMAを含む燃料を茨城県大洗町の試験施設にて製造し、再び「常陽」で照射し、隣接する照射後試験施設でMAの核変換挙動データなどを取得する小規模MAサイクル実証試験を進めている。この試験で得られるデータは世界的にも貴重な知見として期待されている。

私たちがめざすものは、高レベル放射性廃棄物の減容化と有害度低減とともに、MAをエネルギーとして利用することにある。