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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第19回 自然循環で炉心冷却 受動安全を実現できる高速炉

高速炉・新型炉研究開発部門
副部門長 上出 英樹 (かみで ひでき)
掲載日:2018年6月22日

安全性は新しい原子炉を設計する上でもっとも重要な点である。安全で経済性があって、高レベル放射性廃棄物の低減にも寄与する。将来はウランの輸入に頼らずエネルギーの自給に大きく貢献する。私たちが目指す高速炉の姿だ。

240トン保有

皆さんは金属ナトリウムを見たことがあるだろうか。原子力機構の大洗研究所では、40年以上にわたってナトリウムを扱う試験を実施しており、近年では240トンのナトリウムを保有する試験施設AtheNaを整備している。大洗研究所と敦賀総合研究開発センターでは、その安全な取扱いのために訓練が定期的に行われている。固体ナトリウムを包丁で切ると、その断面は金属光沢をしている。3mm角ほどに切ったナトリウムに水をかけるとパチンと火花を発して跳ねる。水と激しく反応するので注意が必要だ。ナトリウムを中華鍋のような燃焼皿においてガスバーナーで温めると溶けてさらに高温になると燃え出す。その炎の高さは数センチメートルと低く、ナトリウムの広がりを抑えれば、油のように高く燃え広がることがない。機構ではナトリウムの燃焼実験を積み重ね、湿分などの条件に応じた燃焼特性を予測する解析手法を開発し、その精度を確認している。

大気圧下で水は100℃で沸騰するのに対し、ナトリウムは880℃で沸騰する。つまり、圧力を加えなくても高い温度まで液体の状態で使える。高温の配管がもし破れても圧力で外へ吹き出すことはない。漏れたナトリウムを保持する容器や金属の壁で覆うだけで、それ以上漏れ出ることを防ぐことができる。また、ナトリウムは熱の伝わりやすさが水の100倍もあって、その分小さな熱交換器で熱を次の系統に伝えることができる性質をもつ。この二つの特徴は、冷却材にナトリウムを使う高速炉の大きなメリットになる。

自然に冷却

福島第一原子力発電所の事故が大きくなった最大の要因は、原子炉の核分裂反応の停止には成功したが、その後の崩壊熱、すなわち核分裂破片が安定化する過程で徐々に出てくる熱を取りきれなかった点にある。

ナトリウムを使う高速炉では、前述のように圧力が高くないので配管が壊れてもナトリウムの液位を確保できる。あとは熱交換器があれば、空気より温度が500℃も高いナトリウムから空気に熱を伝え、高い排気筒を通して無尽蔵の大気が熱を外へ逃してくれる。ナトリウム側も炉心で熱く軽くなることで高い所に置かれた熱交換器に到達し、冷たく重くなることで自然に炉心に戻る。つまりポンプを使わず電源がなくても自然の力で炉心を冷やすことができる。

フランスと共同

大洗にある高速実験炉「常陽」ではフルパワーの状態から核分裂を停止し、この自然循環で確実に炉心が冷やせることを確認している。さらに高速炉の安全性を高め、その実用化を目指す。この春からは、炉心の一部が溶けて閉塞するような事態においても安定して炉心を冷却できることを調べる試験をフランスとの共同研究として開始している。