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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第16回 物質の構造に迫るJRR-3

原子力科学研究部門 原子力科学研究所
物質科学研究センター長 武田 全康 (たけだ まさやす)
掲載日:2018年6月1日

大学院では、パルス強磁場と定常強磁場を使った磁性の研究で学位を取得。在学中に中性子の魅力に取り付かれ、学位取得後に念願叶い、中性子とつきあい始めて25年余り。当機構ではパルス中性子と定常中性子を使って磁性研究を行ってきたが、最近は実験室とは縁遠くデスクワークに追われる日々。東京都出身。

機械内部を透視

原子核は中性子と陽子から構成される。このうち中性子は、電気的に中性であるため、ほとんどの物質に対し透過力が非常に強い。これを利用して、機械構造物の内部を非破壊で透視することができる。これが、中性子ラジオグラフィーと呼ばれる手法だ。一方、中性子は、粒子であるのと同時に波の性質を持つために、機械構造物を構成する物質の原子配置のようなミクロ構造をも調べる事ができる。これを、中性子回折法と呼ぶ。

X線は医療診断には非常に有効であるが、機械構造物を通りぬけることはできない。ここで威力を発揮するのが、中性子ラジオグラフィーだ。JRR-3と同じ原子力科学研究所の敷地内の大強度陽子加速器施設(J-PARC)には大強度のパルス中性子源があるが、JRR-3では、毎秒2000コマ以上の動画撮影ができるため、エンジン内部のオイルが高速で動くようすを観察することが可能だ。一方のJ-PARCでは、中性子の吸収率が中性子のエネルギーに依存することを利用した元素マッピングなど、互いの強みを活かした研究が行われている。

ミクロ構造観測

進行する波は、波長と同程度の周期構造をもつ障害物があると、ある特定の方向で波の振幅が大きくなる回折と呼ばれる現象が起こる。物質を構成する結晶の中で規則正しく並んでいる原子間距離と同程度の波長を持つ中性子を結晶に当て、波の進行方向に対して、どの方向にどの程度の強さで回折されるかを丁寧に調べることにより、ミクロな結晶構造がわかる。

構造材料に荷重が加わったり、溶接によって歪みがはいると、結晶が変化して回折の様子も変わるため、その変化を丁寧に調べることによって、配管の溶接部などの内部応力を調べることができる。中性子回折法でも、JRR-3では望遠レンズのように局所的な構造を詳細に、パルス中性子源では広角レンズのように、広い範囲を一度に観察するのに適しており、両者は相補的に利用される。

尽きぬ夢

JRR-3では2006年から6年間、中性子の産業利用推進を目的とした文部科学省の事業である「中性子利用技術移転推進プログラム」が行われ、多くの企業の方に使っていただいたが、東京電力福島第一原子力発電所事故以降、研究用原子炉の規制の見直しがなされ、これへの対応でJRR-3は停止したままである。2年後に予定している運転再開後に、JRR-3が学術と産業の異分野融合による新たなイノベーション創出の場となることを目指したさまざまな計画を頭に描いており、その夢は尽きない。