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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第15回 基礎研究から産業利用まで幅広く利用される中性子

原子力科学研究部門 原子力科学研究所
物質科学研究センター長 武田 全康 (たけだ まさやす)
掲載日:2018年5月25日

大学院では、パルス強磁場と定常強磁場を使った磁性の研究で学位を取得。在学中に中性子の魅力に取り付かれ、学位取得後に念願叶い、中性子とつきあい始めて25年余り。当機構ではパルス中性子と定常中性子を使って磁性研究を行ってきたが、最近は実験室とは縁遠くデスクワークに追われる日々。東京都出身。

研究用原子炉(研究炉)JRR-3

人工的に物質の中から取り出され、広範な先端科学技術分野に利用されるイオン、電子、陽子、放射光(光子)等は「量子ビーム」と呼ばれている。量子ビームの中でも、物質に対する優れた透過力と物質中に存在する水素等の軽元素やミクロな磁石を見分ける能力を併せ持つ中性子を使って、基礎的な学術研究から製品に近い産業利用に及ぶ幅広い分野の研究を行っているのが、東海村の原子力科学研究所にあるJRR-3だ。

科学技術分野の研究に使えるだけのたくさんの中性子を原子核から取り出すのは、実は容易なことではない。その一つにウランの核分裂を使う方法がある。ウランが核分裂する際に発生する熱を電力や動力として使うエネルギー利用と、核分裂の際に発生する中性子を使う放射線利用は原子力の平和利用の象徴でもあり、両輪でもある。

黎明期支える

JRR-3は1962年(昭和37年)に初の国産研究炉として建設され、原子力の黎明期を支える多くの研究に広く活用された後、1985年から1990年の間に大規模な改造を行い、今では我が国最大級の現役の研究炉だ。

JRR-3は世界的に見ると中規模の研究炉で、その熱出力は最大20MWと、商用の発電用原子炉と比べると約100分の一程度だ。JRR-3は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後に制定された厳しい安全基準を満たす必要があり、震災後に停止したまま、7年を経過した現在でも、原子力規制委員会による審査が行われている。

審査が長期化している原因は、研究炉の審査では、炉ごとの特性とリスクの大きさを踏まえたグレーデッドアプローチが適用され、JRR-3の特徴を考慮し、慎重な審査が行われているためである。

JRR-3には、31台の多様な装置が設置されているが、その中には物質の内部を観察する中性子ラジオグラフィー装置や、材料内部に発生する応力・ひずみ状態などを非破壊法で測定する残留応力評価装置などの産業利用にも強力な装置もある。

魅力的な装置

JRR-3の魅力に産業界の研究者の方々が気がつき、以前はほとんど無かったJRR-3の産業利用件数が右肩上がりに伸びていた矢先に、時が止まってしまった。研究炉を使った中性子利用研究が、いかに重要で、強力なものであるかを知る国内の多くの研究者が待ち望む、JRR-3の運転再開の見込みは耐震工事終了後の2020年秋である。