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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第14回 高レベル放射性廃棄物対策の切り札めざし

原子力基礎工学研究センター
分離変換技術開発ディビジョン
研究主席 松村 達郎 (まつむら たつろう)
掲載日:2018年5月11日

原子炉の使用済燃料の処理は、原子力エネルギーの利用の大きな課題と考えています。原子力機構の持つ化学系の研究者と研究インフラを結集して、この課題に取り組んでいます。今後は、実用化に向けた研究開発を進める予定です。

“BECKY“

茨城県東海村にある原子力科学研究所の正門を入り、多くの建物、研究炉、大型線形加速器を過ぎるとバックエンド研究施設(BECKY)がある。ここでは、再処理や放射性廃棄物に関する化学的実験研究をおこなっており、極めて高い放射能濃度を有する試料を取り扱っている。

そのため、この施設では放射線を遮へいするために通常よりも密度を高めたコンクリート(重コンクリート)で取り囲み遠隔操作で取り扱えるようにした空間(αγセル)や、試料を密封した状態で実験を行うグローブボックスを備えている。これらの設備は、厳しい安全管理の下で活用されている。

消滅は夢でも・・・

「放射能を消滅させる」ことは夢であるが、「放射性物質を分離して短半減期化する」ことは実現可能である。再処理から発生し極めて高い放射能を有している高レベル廃液が、ほぼ自然界と同等に減衰するには数千年から1万年以上かかる。

我々が目指す分離変換技術では、この高レベル廃液から放射能毒性が高く長寿命であるマイナーアクチノイド(MA)を99.5%以上分離して抽出し、加速器を利用した核変換システム(ADS)によって短寿命あるいは安定核種に変換する。これによって、前述の減衰期間を数百年に短縮する。

化学の枠結集

分離変換技術を確立するためには、まず高レベル廃液からMAを分離しなければならない。高レベル廃液は、極めて多種の元素を含む高硝酸濃度の液体であり、化学処理を組み合わせて目的元素の分離を達成する「分離プロセス」の設計は困難である。実現のためには新しい概念に基づく分離試薬を開発する基礎化学から、これを利用して分離プロセスを構築する化学工学まで結集する必要がある。

こうした研究成果の積み重ねの結果、分離化学処理中に発生する放射性廃棄物(二次廃棄物)の発生量を極力少なくしたMAの分離プロセスの開発に成功した。昨年度には、BECKYのαγセルにおいて、高レベル廃液からMAをほぼ完全に分離できることを確認した。

分離プロセスの開発は、分離変換技術の実現に不可欠な部分を担っている。今後は、実用化に向けた研究開発を展開し、工学的なスケールに開発を進めていく予定である。