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原子力機構の“いま-これから”
日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中第12回 放射線環境中のセラミックスがもつ自己修復能力の発見
過酷な環境
放射線は、材料中のミクロの構造を壊していく力を持っている。したがって、放射線が飛びかう空間は、材料の本質的な強さが試される場所である。そのような過酷な放射線環境でも耐えうる強い材料が存在する。それが、原子炉内で使われている原子力材料である。「放射線に強い材料」のチャンピオンと言える。
我々材料研究者の役目は、次世代のチャンピオン材料を開発していくことである。そのためには、それぞれの材料が持っている潜在能力を見つけ出し、その能力を伸ばす不断の努力が要求される。我々はセラミックスの素晴らしい能力に目をつけ、長年セラミックスの材料研究を続けている。
強靭さの源
核燃料として使われている酸化ウランペレットは、セラミックスの一つである。もちろん、ウランの核分裂反応を発電に利用することが酸化ウランを使用する本来の目的であるが、熱に強く、硬いというセラミックスの長所を存分に生かした好例といえる。また、酸化ウランは、特に放射線に強いセラミックス、いわゆる耐照射性セラミックスとしても知られている。
放射線に耐える強靭さというのは、どこから来るのであろうか。この問いに答えるために、重粒子放射線を照射したさまざまな種類のセラミックスを用意した。そして、原子レベルの解像度をもつ透過型電子顕微鏡を使い、観察方法の試行錯誤をしながら微細観察を繰り返してきた。
セラミックスの結晶中の原子はもともときれいに整列している。通常のセラミックスの場合、放射線を浴びた場所は、その整列が崩れてしまっている様子を観察できる。しかし、一部の耐照射性セラミックスを観察したとき、異なる様子が目に飛び込んできた。放射線で原子の配列が崩れたはずの場所で、原子の整列が復元していたのだ。
極小のナノメートルの世界を覗くと、セラミックスの明るい未来が見える。耐照射性セラミックスには、原子の配列を復元する自己修復能力が備わっているようだ。
自己修復
セラミックスは、今後どのような潜在能力を目の前に見せてくれるのか、この特殊な能力をさらに伸ばすためにどのような工夫が必要なのか、材料研究者としての興味は尽きない。
夢を現実にする。自己修復能力が十分に発揮されるようになれば、過酷な放射線環境が想定される宇宙材料や次世代の原子力材料にセラミックスが利用される機会が増えるであろう。メンテナンスのいらないセラミックス材料が活躍できる日が早く来るように、努力を重ねていきたい。