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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第11回 ウランの仲間たちの謎を解き明かす

先端基礎研究センター
重元素材料物性研究グループ
研究主幹 芳賀 芳範 (はが よしのり)
掲載日:2018年4月13日

大学時代から固体物理に取り組み、原子力機構に着任と同時にウランの科学に飛び込んだ。ほとんどの人が目にすることすらないウランやプルトニウムを手にするのは感動だった。知恵を絞りながら単結晶試料を成長させる過程はほとんどが手作業で時間がかかるが、喜びも大きい。東海村に住み、最近はランニングに熱中。研究もマラソンだ。青森県出身。

92個の電子

原子力エネルギーの源がウランの核分裂に由来していることはよく知られている。しかし、ウランがどのような物質であるかはあまり知られていない。純粋なウランは金属光沢を持ち、電気をよく流す。他の全ての元素と同じように、ウランは原子核と電子から出来ているが、最大の特徴は、その数が多いことである。

身近な金属であるアルミニウムが十三個の電子を持つのに対し、ウランは九十二個。天然に存在する元素の中で最大である。物質の性質は電子が支配しているが、九十二個の電子が関わると、意外な性質を示すようになる。例えば、ウランと白金の化合物は超伝導体であることが知られている。

“呉越同舟”

一方で、ウランとゲルマニウムの化合物は磁性体である。超伝導と磁性は一般に相反する性質であるが、ウランはその両方を実現する。核燃料として高温で活躍するウランが、超伝導という極低温の物理現象にも関与するのである。

原子力機構の先端基礎研究センターでは、ウランをはじめとするアクチノイド元素の物性物理研究に取り組んでいる。物性物理研究の出発点は高純度の試料である。原料となるウランの精製から始め、単結晶育成テクニックを駆使し、不純物を取り除く。これにより物質の本質が明らかになってくる。

同センターでは新物質探索も行う。ウランの九十二個の電子は、他の元素との組み合わせにより、新現象、新機能の発現をもたらす。また、物質を圧縮して原子の間隔を連続的に縮めると、電子の挙動の変化が観測できる。磁性が超伝導に移り変わったり、絶縁体が金属になったりする。一歩進めて、その境界で起こる異常な臨界現象を理解することは、物性物理の重要なテーマであると同時に多くの自然現象にも応用可能な普遍性をもつ。

これらを電気的応答、磁気的応答、さらに核磁気共鳴を使ったミクロな応答を通じて調べ、そのメカニズムを理解するのが我々の目的である。多くの電子が関与する問題は理論的にも困難を極める。それだけにやりがいのある研究であると言える。

奥深い物質科学

現代の物質社会を支えているのは、新物質による新現象や新機能の発見である。アクチノイドや重元素に代表される多電子系の物質科学はまだまだ探索の余地があるように思える。