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原子力機構の“いま-これから”
日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中第9回 自然界にない原子核を生成する
最高の電圧
茨城県東海村にある原子力機構の原子力科学研究所キャンパス、緑の松林に囲まれて、ひときわ高い建物が建っている。ここには、現在、地球上で最も高い電圧、一千八百万ボルトをかけることのできる装置、タンデム加速器が収められている。高電圧を利用して様々なイオンが加速され、基礎科学から応用にわたる多彩な研究を支えている。その高い汎用性のため、国内外の大学や研究機関、さらに一般のメーカーの研究者が訪れ、昼夜を問わず実験が行われている。
この十二年間に五百件以上の科学論文が出版されており、加速器の活躍ぶりがわかる。現在も、自然界の未解決問題にチャレンジするユニークなプログラムが進んでいる。
世界的にまれ
具体的な実験の例を見ると、炭素、酸素、ネオンなどを加速して標的に衝突させて自然界に存在しない原子核を生成し、これらの性質を調べている。究極の目標は、周期表の最も重い元素はどこまで存在できるのか、天体における元素合成過程でこれら重い元素は作られたか、といった疑問に答えることである。
このような問いを追及する実験を行うため、タンデム加速器の施設はウランやプルトニウムのような放射性アクチノイドを標的として使うことができる、世界的に見ても稀な設備を整えている。そして、ビームの空間的な広がりを一ミリメートルに抑えることができるため、非常に少量の標的試料でも実験が可能である。
“二刀流”目標
昨年、米国オークリッジ国立研究所(米国エネルギー省)から〇.五マイクログラムの人工元素アインスタイニウムを入手し、これを用いた実験を進めている。アインスタイニウムの原子番号は九十九で、ウランより陽子の数が七つ多く、専用の原子炉によって一年かけて生成される貴重な試料で、米国で一四年ぶりに生成された。アインスタイニウムにイオンを照射するのは日本初で、一〇〇番目の元素フェルミウム以上の重い原子核に現れる核分裂や原子核構造の解明を目指す。
この研究は、最も重い元素の存在や天体での元素合成の理解に資するデータを与えるほか、原子力発電所で生じる長寿命の高レベル放射性廃棄物を核変換によって減容する技術にも貢献する。我々の希望は、タンデム加速器を用いた研究を通じて社会への貢献と自然界の不思議を解決できる二刀流になることである。