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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第8回 原子力科学研究の研究者集団

原子力機構原子力科学研究部門
企画調整室長 兼 原子力科学研究所副所長
峯尾 英章 (みねお ひであき)
掲載日:2018年3月23日

化学工学出身で再処理の基盤的研究開発を手がけた。ここ数年は機構事業の計画統括、部門事業の企画調整を担当。原子力科学の先端的研究や基礎基盤に係る研究開発は、今とこれからの原子力を柔軟に高い水準で支え、先導していく資質と体力を養っていく上で必須と考えている。

未知への挑戦

東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故対応では、燃料デブリと闘う未知の領域への挑戦が待っている。安全性の向上や廃棄物問題の解決も必須だ。さらに放射線利用にはイノベーションを誘起する先端技術も求められる。これらに対応する研究者集団がある。それが原子力機構の原子力科学研究部門だ。同部門にある3つの研究センターは、他に類を見ない研究施設を使って、先端的な研究、基礎基盤研究や応用研究を行っている。

先端基礎研究センターでは、核分裂の根幹に迫る研究や、量子力学を駆使した新しいエネルギー変換の研究、ネイチャーの表紙を飾ったローレンシウム研究に代表されるアクチノイド研究など先端的な研究を行っている。原子力機構のユニークな研究施設やノウハウを活用して、新しい科学技術の分野を開拓し、原子力機構が将来担うべき科学技術の新しいフェイズを切り開こうと日夜努力している。

基盤維持・強化

原子力基礎工学研究センターでは、原子力利用で必須の中性子のデータベースJENDLや、あらゆる物質中でのさまざまな放射線の動きを計算できるPHITS、事故時の大気中での放射性物質の拡散を迅速に予測するWSPEEDIをはじめとする原子力利用の基盤部分を維持・強化している。

この能力を応用して、事故に強い軽水炉燃料の開発や、放射性廃棄物の地層処分期間を飛躍的に短くする分離変換技術の開発に取り組んでいる。原子力機構の中での中央研究所的役割を志す原子力科学研究部門において中心的役割を担っている。

社会に貢献

中性子と放射光をうまく利用することで、物質の種類・性質や構造などを詳しく知ることができる。こうした物質・材料科学研究を推進することを目的として生まれた物質科学研究センターからは、社会に貢献する成果が出始めている。

金属材料中の結晶の偏りを世界最速で測定できる技術や、セシウム汚染土壌を除染するため、セシウムの状態を放射光で測定する技術の開発などが、それだ。原子力の平和利用の象徴とも言える中性子と放射光を使って、社会の福祉および国民生活の水準向上への貢献を目指している。

原子力科学研究部門は、原子力のエネルギー利用と放射線利用を支える最新の科学技術をけん引し、自由な発想で原子力に関わる研究開発を行っていく。次回からは、研究者たちの自由な発想と熱い努力で得られた研究成果を紹介する。