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原子力機構の“いま-これから”

日刊工業新聞にて毎週金曜日連載中

第6回 溶けた燃料を削り取る

福島研究開発部門福島研究開発拠点廃炉国際共同研究センター
遠隔技術ディビジョン遠隔分析技術開発グループ
山田 知典 (やまだ とものり)
掲載日:2018年3月9日

現場への適用を目指し、レーザー光とウォータージェットを組み合わせた加工技術の開発を行なっています。本技術が、今後の廃炉作業等の現場でツールの一つとして使用されることを期待します。

デブリの把握

東京電力ホールディングス福島第一原子力発電所(1F)の廃炉を進めるためには、まず炉心から溶け落ちたデブリがどこに、どのような性状や形状で、どれぐらいの量があるかを把握する必要がある。その後に控えるのが、回収を前提にしたデブリの切り出しだ。

このデブリは溶けた燃料が原子炉の構造物などを溶かしながら固まってできたため、性状や形状が一様ではない。放射線量も高く、部分的には相当に固いと想定されている。通常のカッターではまるで歯が立たない。

このため原子力機構では、福井県にある「ふげん」の廃炉で既に実績があるレーザーによる切断方式に注目した。この方式だと加工ヘッドを移動させれば、どのような形状のデブリにも対応することができる。カッターのように直接デブリに接触することがないため、摩耗することもない。

粉じん抑える

ただしレーザーによる切断の場合には、切断面の溶けた部分をガス流で吹き飛ばすために、粉じんが生じる欠点がある。これに対応するために原子力機構などは、レーザー照射面に水を噴射するウォータージェット装置と回収装置を組み合わせることで、粉じんを抑えるレーザー加工技術の開発を進めている。

1Fの廃炉の道筋を定めている政府の中長期ロードマップでは、2021年からデブリを取り出す計画となっている。その際にはデブリをどのような方法で、どのような形で取り出すのが最適か、残された時間が限られた中で、担当者は試行錯誤を続けながら、前例のない研究に取り組んでいる。

原子力機構と日立GEニュークリア・エナジー、スギノマシンの三者は共同で1Fの廃炉作業の一環としてレーザー加工の技術開発を進めており、このほどレーザー光と、ウォータージェットを組み合わせることで、対象物を表面からきれいに削り取ることにより高い加工性能を実現できることを確認した。この成果によりデブリや炉内構造物の表面を削り取る作業や、それらを切断する作業への適用が期待できる。また、この技術は遠隔操作技術とのマッチングにも優れている。

有望な選択肢

さまざまな物質が混じりあい、複雑な形状の1Fのデブリを削ったり切断したりする作業は多くの困難を伴うが、このシステムは多様な廃炉作業に対するフレキシビリティーが高いため有望な選択肢となり得る。原子力機構などでは今後、耐放射線性能の向上や回収装置のシステム化などの課題を解決し、技術の確立に向け、引き続き研究を進めていく。

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