国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

平成28年9月12日
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

ラグビーボール型に変形した原子核のハサミ状振動の全体像を明らかに
―30年の謎を解明し、原子核の構造・性質の統一的理解に道筋―

【発表のポイント】

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫)量子ビーム科学研究部門のクリストファー・エンジェル主任研究員らのグループは、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄)核不拡散・核セキュリティ総合支援センター、米国エネルギー省(ローレンス・バークレー国立研究所等)と共同で、ラグビーボール型に変形した原子核をもつタンタル原子核(Ta-181)の振動をガンマ線を透過させて高精度で観測することに成功し、これまで知られていなかった原子核のハサミ状振動の全体像を明らかにしました。

原子核は、構成する陽子や中性子の数やその比によって球形から歪んだ形をとり、例えばタンタルの同位体(Ta-181)などの原子核は、ラグビーボール型に変形しています。固そうに見える原子核は、「柔らかく形を変える」性質があり、これらの原子核では、陽子と中性子の塊がハサミの動きに似た周期的な振動をすることが知られていました。これまで30年近く、様々な実験や理論構築が試みられてきましたが、この振動のメカニズムを解明して原子核の姿を統一的に理解するには至っていませんでした。

そこで研究グループは、非常に強い透過力を持つ「ガンマ線」をエネルギーを自在に変えて発生できる「レーザー・コンプトン散乱ガンマ線」を用いた「透過法」によりTa-181の原子核を詳しく調べました。その結果、Ta-181原子核におけるハサミ状振動が従来の測定結果の約2倍強く、さらに、エネルギーの異なる複数のガンマ線放出を伴う原子核振動の減衰プロセスが存在することを初めて突き止めました。

この結果は、従来提唱されていた振動の減衰プロセスとは大きく異なるもので、原子核そのものの動き方についての理解を大きく塗り変えるものです。本手法で様々な原子核を観察し変形核の振動や回転といった挙動を明らかにすることにより、原子核の姿といった核物理学の根本的な理解につながることが期待できます。さらに、ウランやプルトニウムなど核セキュリティ上重要な物質ではハサミ状振動が非常に強く現れることから、今回見いだした振動の減衰時に放出されるガンマ線を測定することで、核物質の非破壊検知に役立つ可能性もあります。

本成果は米国物理学会が発行するPhysical Review Letters の9月16日号に掲載されます。なお、本研究はコンテナの中の重遮蔽物の中に隠匿された核物質を検知する技術が確立されていないことから、レーザー・コンプトン散乱NDA技術をこれに適用する研究として、文部科学省の「核セキュリティ強化等推進事業」(H23-26年度)の中で実施した、米国Duke大学での実験データの解析により生まれた知見です。

参考部門・拠点: 核不拡散・核セキュリティ総合支援センター

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