原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

046 核物質検知装置を開発

掲載日:2023年10月3日

原子力基礎工学研究センター 原子力センシング研究グループ
研究主幹 米田 政夫

2002年に当時の日本原子力研究所に入所。現在は主に中性子を用いた核物質の非破壊測定技術開発に従事。紹介した低コスト可搬型核物質検知装置のほか、加速器を用いた高性能な核物質測定装置の開発、茨城県東海村の研究施設においてこれまでに培われてきた技術を基盤に新たな測定技術の開発に取り組んでいる。

低コストで持ち運び容易

核物質を用いたテロは社会に甚大な影響を与えるため、核物質検知装置の重要性が注目されつつある。核物質を検知する方法には、対象物自身が放出する放射線を検出するパッシブ法と、対象物に放射線を照射して調べるアクティブ中性子法がある。パッシブ法は安価だが検知性能は低い。一方のアクティブ中性子法は、検知性能は高いが、重厚な遮蔽が必要になるなど、装置自体が高価で大型になることが課題であった。

安価な線源利用

日本原子力研究開発機構は、警察庁科学警察研究所と協力して、低コストで小型(可搬型)の中性子発生器および中性子検出器からなる新方式の核物質検知装置開発に着手した。線源に安価なカリホルニウム-252(Cf-252)を採用し、従来のアクティブ中性子法より大幅に安く小型化することに成功した。

中性子を対象物に照射したとき、その対象物が核物質を含む場合、照射した中性子が核物質と反応して新たに中性子が発生する。アクティブ中性子法は、この二つの中性子を観測する際のわずかな時間差から核物質の有無を調べる仕組みだ。

しかし、単に中性子を対象物に照射するだけでは、照射した中性子と発生した中性子とを区別できず、核物質の有無を判断できない。それには中性子の照射強度を変化させる必要があるが、Cf-252だけではそのような照射はできない。

新しい原理採用

このため原子力機構では、Cf-252を取り付けた円盤を回転させ、照射強度を規則的に変化させる装置を開発した。円盤を低回転と高回転にし、照射に強弱をつけ、それぞれの場合を比較すると、照射した中性子と発生した中性子の強度変化の差を観測できるようになり、核物質の有無の判断が可能となる。この新しい原理を採用した照射装置で実証実験を実施し、核セキュリティ装置として十分な検知性能が期待できることを確認できた。

核テロ対策

また、アクティブ中性子法での中性子検出器には、これまで高価なHe-3 検出器が使われていたが、これに代わって安価な水を使った水チェレンコフ光中性子検出器も開発した。これとCf-252を用いた中性子発生器を組み合わせることで、核物質検知装置全体の大幅な低コスト化と、持ち運び可能な小型化を達成した。

今後は実用化研究を進め、核テロ対策装置として早期の実用化を目指す。