原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

044 二相流模擬コード開発

掲載日:2023年9月19日

原子力基礎工学研究センター 核工学・炉工学ディビジョン
ディビジョン長 吉田 啓之

1994年に日本原子力研究所(現原子力機構)に入所。新型炉の設計研究や二相流シミュレーションコードの開発に従事し、その手法を東京電力福島第一原子力発電所の炉内状況把握にも適用した。現在は開発した手法の普及に加え、他分野との連携によるマルチフィジックス連成シミュレーション技術開発に取り組んでいる。

気体と液体の流れ再現

スパコン利用

原子炉内でよく見られる、気体と液体が混ざった流れを「気液二相流」あるいは単に「二相流」という。原子炉内ではよく見られる現象だ。なお原子炉の設計時やそれを変更する際には、炉内の流れや熱移動に関するデータを実験や計算で事前に把握する必要がある。

しかし二相流は複雑で、事前の把握には膨大な時間と費用を要していた。このため日本原子力研究開発機構では、スーパーコンピューターを利用して、これまでより短時間かつ低コストで把握できるシミュレーションコードを開発した。

原子炉を設計する際には、炉内の温度や圧力、さらには冷却材などの流れや熱の移動に関するデータが必要になる。それらは模擬試験装置や、設計用のソフトウェアを使って得られる。このため、大幅な設計変更の場合には試験装置を製作し実験するなど、多くの費用や時間を必要とした。

一方、航空機や自動車の設計の場合には、対象とする流れが気体か液体のどちらかの単相流であることが多く、数値シミュレーションで実験を代替して設計の効率化を図っている。しかし、原子炉内の流れは温度や圧力がそれらと大きく異なるだけでなく、二相流であることが、効率化を妨げていた。

二相流では、気体と液体の間に界面ができ、その形や大きさが刻々と変化する。界面にはその形や大きさで異なる表面張力が働き、これは二相流に大きな影響をもつ。

複雑な二相流

また、その反対に流れは界面の形や大きさに影響を与えるため、単相流と比較して複雑で、それらをシミュレーションするためには膨大な時間が必要だった。

そこで原子力機構では、界面の移動や変形などの詳細な計算が可能な計算手法を開発。さらにスーパーコンピューターでそれらの大量の計算を高速で実施できることを可能とする数値シミュレーションコードTPFITとJUPITERを開発した。これらのコードを用いることで、気泡の合体や分裂、液膜の波立ちや液のしたたりなど、原子炉の中で見られるさまざまな流れを再現することができた。

現在は原子炉内二相流を対象にこれらのコードを用いて、試験再現の確認や、データ取得を行っている。

他分野へ応用も

なお二相流は、天然ガスの気化や電子機器の冷却などでも見られる現象であり、今後は原子炉設計以外の分野への応用も期待できる。