115 1F事故後の環境動態研究
掲載日:2025年3月25日
森林セシウム 影響解明
2011年3月、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、多量の放射性物質が環境中に放出された。環境を回復し、生活の営みを再び可能とするには、現在の状態を把握し(モニタリング)、放射性物質を取り除き(除染)、環境中での放射性物質の動きから将来の再汚染の可能性を予測する(環境動態研究)ことが必要となった。これに応えてきたのが日本原子力研究開発機構の環境回復研究だ。
大規模除染へ
モニタリングで放射線量率の状況が明らかになると、除染に向けた方策検討が始まった。まずは、児童生徒が通う学校や幼稚園が対象だ。除染で発生した除去物の保管場所がない中、校庭の線量率を効果的に低減するため、剥離した土壌の地下保管や土壌の上下入れ替えを提案した。また、プール水中の放射性セシウムを効率的に除去するシステムを整備、マニュアルを作成して除染に役立てた。その後、様々な建物用地単位での除染が進められたが、線量率を効果的に下げるには、広範囲を除染する手法構築が必要とされた。そのため、浜通りの11自治体で線量率が異なる地域を選び、広域除染を行うための技術やシステム、進め方に関する実証事業を実施した。
動き読み解く
除染が進み、避難指示の解除で住民の方々が生活を再開すると、「除染していない森林から放射性セシウムが流入し、生活に影響するのではないか」と懸念の声が聞かれた。原子力機構ではその懸念に科学的根拠に基づいて答えるため、将来にわたる放射性セシウムの環境中での動きと影響の予測を目指し、2012年に環境動態研究を開始。その後、約12年にわたる継続的な調査研究から、現時点で放射性セシウムは地表から6センチ程度の森林表土に存在し、森林からほとんど流出しないことを解明した。シミュレーション評価の結果、将来にわたり再流入による生活圏への影響はほとんどないことも確認できた。
しかし、放射性セシウムが流出しないということは、森林に長期間残留することを意味している。森林の表土とキノコ、樹木、渓流魚などの生態系における放射性セシウムの移行挙動を明らかにすることが、今後の課題だ。環境動態研究は今年4月に福島国際研究教育機構(F―REI)へ移管するが、引き続き森林に残存する放射性セシウムが隣接する生活圏に及ぼす影響を把握し、帰還困難区域の全解除に役立てたい。