114 地衣類はなぜセシウムを保持できるか
掲載日:2025年3月18日
2つの性状並列、長期滞留
身近な菌類
福島県内の一部のキノコや山野草では放射性セシウム(Cs)濃度が高い状態が続く。Cs保持のメカニズムは何か、どうすれば抑制できるのかなど、原因解明と対策は急務だ。日本原子力研究開発機構は、キノコと同じ菌類の仲間「地衣類」に着目、Cs保持に独立した二つのメカニズムがあることを明らかにした。
地衣類は1年中、世界中の陸上どこにでもいる。私たちの視界に必ず入るが、国内認知度は極めて低い。木や岩などの表面で模様(シミ)のように見えるからだろう。実体は藻類と共生する菌類で、寿命が数十年と長く、体全体で大気中から水分や無機栄養物を取り込む性質を持つ。
1950年代後半、核実験が活発化した頃から国外では地衣類のCs濃度の高さが知られ始め、環境中のCs濃度指標としても活用されてきた。
だが「どこにどのような状態でCsを蓄積するか」詳細は分かっていない。解明には生体組織内のどこに存在するかを調べ、組織部位に存在する物質とCs保持の関連をひもとく必要がある。
点と面で相違
そこで、私たちが分析対象に選んだのは、福島県内で採取した葉状地衣類のウメノキゴケ。体を構成する組織層が表面側から順に、藻類を含む上皮層、髄層、下皮層の3層に明瞭に分かれるためだ。放射線感光フィルムで体全体のCs分布を調べると、二つの特徴が浮かび上がった。一つは「点状の分布」で粒子状のCsがあるように見える。もう一つが「広がりを持つ分布」で、イオン状のCsが組織内で一様に広がったものと推察した。
次にCs分布部位を組織表面から水平方向に5㍃㍍(マイクロは100万分の1)の厚さで切り分け、切片1枚ずつ詳細に調べた。すると、粒子状Csは上皮層から髄層にかけて、イオン状Csは下皮層の黒褐色の色素(メラニン様物質)部分に存在することが確認できた。
環境中Cs解明
さらに電子顕微鏡分析や、Csとメラニンとの化学結合の安定性を計算した。これらの結果から、粒子状Csは体表面から組織の内部に侵入して物理的に保持される。そして、イオン状Csは、地衣類の色素と結合することで、化学的に安定して留まり続けると考えられた。
今回の解析で、二つの仕組みが並列することを示した。今後、地衣類と同一、あるいは類似する仕組みを想定した切り口で、キノコや山野草のCs濃度が高い要因の解明を前進させると期待している。