原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

113 燃料デブリの性状に迫る

掲載日:2025年3月11日

福島廃炉安全工学研究所 廃炉環境国際共同研究センター 分析研究グループ
マネージャー 池内 宏知

09年日本原子力研究開発機構入構。大学院で地層処分を学び、入社後は再処理技術開発へ。1F事故後は、核燃料の溶解技術に関する知識を基に、模擬材料による燃料デブリ特性評価や分析技術開発に従事。ここ数年は1F内部調査などで得られたサンプルの分析データを生かしつつ、燃料デブリの性状推定を進めている。

極微量から全体像推定

状況把握 効率化

東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉は、燃料デブリを安全に回収し、安定保管の状態となるのが当面の目標だ。日本原子力研究開発機構では、1Fで採取されたさまざまな試料を分析し、炉内に堆積した燃料デブリの性状把握を進めている。データを基に事故時の炉内環境を推定し、炉内状況把握の効率化を目指す取り組みだ。

燃料デブリの安全な取り扱い方法の検討には、ウラン(U)がどの程度含まれるか、金属か酸化物かといった性状把握が不可欠だ。これには実際のサンプルの分析データが欠かせないが、サンプル量は極めて少ない。

プロセス探る

そこで、何が材料となり、どんな温度環境を経たのか。水蒸気による酸化はどの程度なのか、といった生成プロセスを探り、事故時の環境推定を目的に置いた。これに、内部調査やプラントデータ解析から推定した炉内の損傷程度など、別角度の情報を合わせると、炉内状況が効率的に把握できる。

東京電力のこれまでの内部調査などでは、原子炉建屋や格納容器内のさまざまな場所からウランを含む微粒子が見つかった。これらの分析で、事故時の温度や気体環境(雰囲気)の推定が可能になっている。

例えば2号機の格納容器貫通部で取った粒子は、ウラン―ジルコニウム(Zr)の混合酸化物と鉄(Fe)―クロム(Cr)酸化物、鉄―ニッケル(Ni)合金などが混ざり合っていた。鉄、クロム、ニッケルはステンレス鋼の成分だ。それなりに酸化した後に粒子が生成したことがうかがえる。

また、プラントデータの解析で、2号機は事故進展中、水蒸気濃度が高くなる条件がそろったことが示唆された。粒子の生成プロセスもこれを裏付ける結果だ。

試験取り出し

2024年11月、2号機ペデスタル(原子炉本体を支える基礎)底部から燃料デブリのサンプルが東京電力により採取された。原子力機構での非破壊検査を終え、サンプルは他の複数の分析機関にも運ばれた。今は化学組成、放射性核種濃度、相状態などを調べる詳細分析中だ。これらのデータを重ね合わせることで、デブリ生成プロセスの一端が見えてくるだろう。

2号機は1、3号機と比べて炉内損傷は小さく、ペデスタル底部の燃料デブリは構造材成分が多いとも考えられている。我々はサンプル分析を継続し、仮説の検証を粘り強く進めていく。そして、実際の分析データに立脚して炉内状況を効率的に把握しながら、燃料デブリの安全な取り扱い方法の確立に貢献していきたい。