111 東海村発 新型熱分離装置
掲載日:2025年2月25日
産官連携で磨く「解決力」
日本原子力研究開発機構には多くの研究者・技術者がいる。各人のスキルやノウハウを使い、社会に潜む課題を解決できたら―。これは研究生活を送る私が常々考えてきたことで、思いはますます強くなっている。今回、地元企業と基礎研究から開発まで連携し、特許取得に至った事例を紹介したい。
現場課題を知る
「何かもっと冷やせるもの、ないですか」。同じ地域活動をしていた縁で、製缶・機械加工業の山藤鉄工(茨城県東海村)から「相談」があった。金属の溶接や切削加工時に加工品や工具の温度が上昇して歪みが生じ、品質安定化を妨げる。エアコンプレッサーの圧縮空気で冷やしているが、製造現場はもっと冷やしたい、という。
業界の共通課題を知った私は、空気の温度を低温と高温に分ける熱分離装置「ボルテックスチューブ」の開発を提案した。
理論と技術融合
さらに、ボルテックスチューブの熱分離性能を上げるため、気体分子の量子化学理論を含むエネルギー変換の仮説を立てた。
分子の振動エネルギー(温度)を電磁波を介して高低に分離する。それには装置の内部に中空の傾斜を付けた螺旋状フィンを固定すれば実現できそうだ。これが発明のポイントになる。
この仮説を、アート科学(茨城県東海村)とも連携して乱流シミュレーションを行い、赤外線ビデオカメラを用いた実験を組み合わせて検証した。山藤鉄工の技術で成したフィン構造は、熱分離を起こす乱流エネルギーと散逸率が高い空間を作り出した。全長が短くても熱分離性能は上がり、従来品の半分以下の長さで24%高い熱分離性能を実現した。
私たちの新型熱分離装置は、送り込んだ圧縮空気を、52度C下がった低温の空気と10度C上がった高温の空気に分ける(測定値)。出口温度と流量は入口圧力と流量配分の調整だけで決まる。冷媒を使わず、可動部品や電気部品が無い、ハンディーで頑強かつユニークだ。2022年公表後、機器メーカーから問い合わせもあり、開発が続く。
内外とらわれず
この一連の開発を通じて、研究者のスキルが解決への突破口を開くと実感させてもらった。今は原子力機構が24年4月に立ち上げた「NXR開発センター」で、センター長を務めている。原子力研究で得た知見を基に、新たな価値を創造する技術を開発し、社会還元へつなげる目標がある。内にこもらず、外へ出て、社会の課題解決に生かす取り組みを継続したい。