110 高速中性子を用いたAc-225製造方法
掲載日:2025年2月18日
国産化へ「常陽」で実証
RI治療に期待
近年の核医学の分野では放射性同位元素(ラジオアイソトープ、RI)を用いた診断・治療に期待が集まる。しかし、我が国は医療用RIのほぼ全量を輸入しているため、経済安全保障の観点からも国産化が課題となっている。
こうした状況を受け、内閣府原子力委員会は「医療用等ラジオアイソトープ製造・利用促進アクションプラン」を策定。この中で日本原子力研究開発機構の高速実験炉「常陽」は、がんの放射線治療の一つ、α線内用療法向けにアクチニウム225(Ac―225)の製造実証が取り組む施策として挙げられた。
α線内用療法は、がん細胞を攻撃するα線放出核種と、選択的にがん細胞に集積する物質を結合させた薬剤を投与する。全身に転移しているなど、外科手術では治療困難ながんに有効な治療法だ。
現在流通するAc―225の多くは冷戦時の核開発の副産物(トリウム229)から抽出しているが、供給量に限りがある。国際的にも治験研究に向けた安定的な代替製造法が求められている。
大量製造に有利
世界的には加速器を用いる方法が主流だが、原子力機構は東京都市大学の高木直行教授らと考案した、「常陽」を用いる方法で研究中だ。原料となるラジウム226に高速炉特有の高速中性子を照射し、Ac―225へと変換する(図)。現状、西側諸国で唯一高速炉を保有する日本だからこそ実現できる手法だ。また、一般的に原子炉を用いた製法は照射体積が大きく、大量製造に有利ともされるからだ。「常陽」でのAc―225製造研究は、私が大学の研究室配属時にスタートしたテーマだ。世界初の高速炉での製造実証を成し遂げたいと原子力機構に入社。今は研究開発と並行し、2026年度予定の実証試験に向け、関係各所と協力しながら許認可取得や設備整備など準備を進めている。
早期導入目指す
Ac―225の臨床導入までにめどを立てるべき課題は多い。治療サイクルに沿った安定供給体制の確立には、薬剤そのものの安全性確認、原料調達と製造、治療現場への輸送など、今の立場を超えた連携が必要だ。
原子力機構は24年2月、国立がん研究センターとの間で協力協定を締結した。両機関の知見と経験を生かし、RIで標識した薬剤の医療現場への早期導入を目指す。まずは「常陽」で製造予定のAc―225を対象に、医用利用可能な品質を確認するため、共同研究を行う予定だ。