原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

109 革新炉開発支援「ARKADIA」

掲載日:2025年2月11日

大洗原子力工学研究所 高速炉研究開発部 システム熱流動工学Gr
グループリーダー 田中 正暁

専門は高速炉熱流動、数値流体力学。高速炉内で発生する非定常熱流動現象を対象とする解析評価技術の整備に携わってきた。「ARKADIA」を含め、原子力機構が有する解析評価技術を民間や教育機関での人材育成に活用してもらうことで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献するSFRを含む革新炉の社会実装に貢献したい。

SFRの社会実装に貢献

AI技術を活用

日本原子力研究開発機構では、次世代革新炉(革新炉)の一つ、ナトリウム冷却高速炉(SFR)の技術開発として、「AI(人工知能)支援型革新炉ライフサイクル最適化手法(ARKADIA)」の構築を進めている。AIやシミュレーション技術を活用し、民間が行うSFRの社会実装を支援するためだ。

2018年12月に閣議決定した高速炉開発の「戦略ロードマップ」では、原子力機構は「民間が取り組む多様な技術開発に対応ができるニーズ対応型の研究基盤を維持していくこと」が役割となった。4年後の改訂ではSFR開発のマイルストーンが、「GX実現に向けた基本方針」(23年2月)では革新炉の開発・建設が、それぞれ示された。

そこで我々は、これまでの研究で培った知見を最大限活用した設計検討や安全評価を実現するため、「ARKADIA」の開発を始めた。

統合知を創出

このシステムはAIを搭載した「ARKADIAプラットフォーム」の下、①設計検討を進める「評価支援・応用システム(EAS)」②プラント挙動を解析する「仮想プラントライフシステム(VLS)」③原子炉開発の知見を集約する「ナレッジマネジメントシステム(KMS)」の3システムで構成。安全性や経済性などの観点からプラントライフサイクルも踏まえ、最適なプラント概念の創出や設計評価を支援する。

19年度からの開発では設計、安全、知識の3分野に分け、EAS、VLS、KMSと連携する個別機能の整備を行った。設計分野のサブシステムは既存シミュレーション技術を集約し、炉心・原子炉構造の設計検討プロセスを構築した。

安全サブシステムでは、全体に影響する過酷事故も含め、原子炉のプラント状態を評価できる新たなシミュレーション手法を開発。知識サブシステムはデータベースの拡充と、AI関連技術を導入してデータ探索機能を高度化した。

民間提供前提に

現在は、SFR実証炉の概念設計に対し、「ARKADIA」が有する解析評価技術基盤(VLS)の一部提供を始めている。24―28年度にかけての「ARKADIA」開発は、民間への提供を前提に、SFRの社会実装に必要な中核システムとなるよう計画を組む。

サブシステムを統合するほか、数値シミュレーション技術を磨き、AI技術導入やリスク情報の活用による設計支援機能の強化にも取り組む方針だ。