原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

107 次世代パワー半導体で電源装置

掲載日:2025年1月28日

J-PARCセンター 加速器ディビジョン
研究主幹 高柳 智弘

『高性能なものは美しい』を理念にデザインにもこだわり加速器装置の開発を行う。J―PARC加速器の建設メンバーとして、装置の維持管理や日々の運転にも携わってきた。現在は、加速器の性能は電源で決まると信じ、産業界や大学などと連携し、カーボンニュートラルの実現にも貢献する小型省電力の新型電源の開発に取り組んでいる。

超高電圧対応、ロス削減

環境配慮も両立

大強度陽子加速器施設J―PARCのような大型研究施設は大容量の電気を要する。年間の電力消費量が多く、研究活動に支障を及ぼさず環境負荷を低減することが近年の課題になっている。日本原子力研究開発機構では電力変換器に次世代パワー半導体を用いた電源ユニットを開発し、大幅な省電力化と小型化に成功。次世代パワー半導体の電力インフラへの普及が視野に入ってきた。

 一般的な電気機器は通電に伴い電力の損失が生じる。設計仕様に従って電力変換器がパワー半導体のオンとオフを繰り返すスイッチング動作を行い、交流と直流を変換したり周波数や大きさ(電圧)を変更したりする。この時、電流変化に起因してジュール熱が発生。その分が損失となって電力消費量が増えてしまう。

 昨今、開発が進む次世代パワー半導体は炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などの新素材を採用する。従来のシリコン(Si)製パワー半導体と比べ、電力損失が小さく、絶縁破壊が起きにくい高耐電圧が特徴だ。電力変換器に次世代パワー半導体を使えばスイッチング動作時の損失低減は想像に難くない。

一体開発がカギ

しかし普及は進んでいない。スイッチング動作時に発生するノイズの低減、電力損失効果に有効な高電圧化に適した絶縁回路も必要で、単なる置き換えではすまないからだ。

そこで、電源システムの基盤づくりに着手した。まず、パワー半導体やコンデンサーなどの回路構成素子が互いに正面を向くよう配置し、対向する出力電流でノイズをキャンセルする放射対称型のモジュール回路基板を開発した。さらに、高電圧印加部の電気回路は絶縁体両面にメッキ層を施した電極構造を採用。コロナ放電の発生元となる空気層が存在しない新たな絶縁構造で、従来型に必須の絶縁油を不要にした。

これら独自モジュール回路基板と次世代パワー半導体SiC製の金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を組み合わせたパルス電源を製作した。同等性能の電源と比べ、消費電力で25%減、筐体の体積比で91%減を実現。また、電源用の水冷設備も削減できるなど、多面的に環境負荷低減が実現した。

産業界へ普及も

電源装置の高度化で科学技術の競争力アップが期待できるだけでない。小型化・省電力化で運搬可能な電源回路システムが可能になる。次世代パワー半導体の電力インフラ設備への普及拡大、国内生産と社会実装の促進も期待したい。