原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

103 高速炉で長半減期核種を短期化

掲載日:2024年12月24日

大洗原子力工学研究所 燃料材料開発部 燃料試験課
研究員 横山 佳祐

2017年に日本原子力研究開発機構に研究職として入構。大洗において高速炉における核燃料の照射挙動解析や、核燃料の研究開発に従事。今後は大洗でしか実施できない核燃料の研究開発を通じて、高速炉の安全性および効率の向上ができる新たな研究開発を進めていきたい。

燃料に混ぜ 廃棄物減容

有害度を下げる

日本原子力研究開発機構は高速実験炉「常陽」を利用し、高レベル放射性廃棄物の減容化に関する研究を行っている。その一つが半減期の長い核種を燃料に混ぜて核変換し、半減期を短縮する技術開発だ。私たちは燃料への配合比率決定に向けた基礎データと物性式取得に成功、次世代革新炉での実現に近づく成果だ。

使用済み燃料には核分裂反応で生まれたさまざまな核種が含まれ、アメリシウムなどマイナーアクチノイド(MA)と呼ぶ放射性元素は半減期が非常に長い。高レベル廃棄物として処分するが、人が近づいても問題のない程度という安全設定上、保管期間は約8000年を想定する。

革新炉を活用

逆にMAを除去すれば有害度は下がり期間は短くできる。そのため、MAを集めて高エネルギー中性子を照射し、減衰が早い放射性元素に変換する有害度低減技術の確立が必要で、研究が進められてきた。

高エネルギー中性子の供給元として有力なのが次世代革新炉の一つ、高速炉だ。原子炉に装荷する燃料にアメリシウムを均一に混ぜ、照射する方法が検討されている。だが、燃料を設計・製作するには、アメリシウム混合による燃料の物性変化を明らかにしなければならない。

物性には熱伝導率、膨張率および融点などの熱的性質がある。その中でも熱伝導率は燃料内部の熱を外部放出する性能に直結し、燃料溶融と密接に関連するため特に重要だ。しかし、アメリシウム混合燃料の熱伝導率測定は非常に難しい。放射能レベルが高く、周囲の酸素分圧の影響で物性が変化してしまう。専用の密封設備や酸素不定比性に対応した雰囲気制御装置の開発が必要となった。

見えてきた相関

そこで原子力機構では、測定時の酸素分圧を制御できる熱伝導率測定装置を開発し、放射性物質を閉じ込め可能なグローブボックス内に設置。アメリシウム含有率5~15%の燃料試料3種を用いて、熱伝導率を測定した。

一連の実験を通じ、アメリシウム混合燃料の熱伝導率はアメリシウム含有率に応じて減少することが分かった。アメリシウム含有率と熱伝導率の関係式も策定、これで高速炉の燃料設計への反映が可能になった。

研究開発は継続中で、今後、測定データを拡充し、熱伝導率式の高精度化を図る。廃棄物の減容化、有害度低減の期待を背負う次世代高速炉開発への貢献を期待している。