原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

102 燃料集合体内の温度予測

掲載日:2024年12月17日

大洗原子力工学研究所 高速炉研究開発部 システム熱流動工学グループ
研究員 菊地 紀宏

専門は高速炉熱流動、数値流体力学。2014年に日本原子力研究開発機構に入構し、主に燃料集合体内の熱流動評価手法の整備に携わってきた。整備した評価手法を民間企業に活用してもらうことで、ナトリウム冷却高速炉をはじめとする革新的原子炉の開発に貢献したい。

SFR実証炉設計に貢献

解析コード開発

原子力発電の次世代革新炉の一つ、ナトリウム冷却高速炉(SFR)の実証炉研究開発は、海外機関とも協力して官民連携の下で取り組みが進んでいる。日本原子力研究開発機構では、SFR稼働時の燃料集合体内で生じる熱と冷却材の流れを評価する解析コード「ASFRE」を開発、炉心設計に必要な解析評価手法を整備した。安全評価技術を精緻化する成果として、実証炉設計への実装が目前に迫る。

SFRは冷却材に熱伝導率の大きい液体の金属ナトリウムを採用、核分裂反応を妨げることなく効率的に熱を取り出せる原子炉だ。炉心に据える燃料集合体は燃料ペレットを詰めた燃料ピン数百本で構成。すべての燃料ピンには螺旋状に細いワイヤ(ワイヤスペーサー)を巻き付けて、冷却材の流路の確保と熱移動を促進する。

稼働が始まると炉心は高い放射線と高温にさらされ、燃料や構造材の変形が起こりうる。設計段階ではこうした影響も考慮し、燃料集合体内の温度が制限値を超えないようにする必要がある。それには、事故を含むさまざまな運転条件下で、燃料集合体内の複雑な熱と流れの様子(熱流動現象)を適切に予測できる技術の確立がカギとなっていた。

連携で精緻化

解析コードASFREは、燃料集合体内の流路を多数の小流路(サブチャンネル)に分割し、サブチャンネル間の混合を定式化する手法を用いた。圧力損失や熱伝達率を実験相関式でモデル化することで、燃料集合体外周から内部までの温度分布の予測が可能になっている。

また、サブチャンネル内をさらに細かなメッシュでモデル化し、燃料ピンの近傍やワイヤスペーサーによる混合の様子を詳細に把握できる解析コード「SPIRAL」を整備。両コードの解析データを比較することで、ASFREの予測結果に対する信頼性向上を図っている。

さらに、燃料ピンの変形を対象にした解析コード「BAMBOO」を開発した。こうした解析コードをASFREと組み合わせることで、放射線や高温状態に長時間さらされて生じる炉心内部での流路変形の影響評価も可能となる。

民間で実装へ

ASFREについては今後、民間企業で実施するSFR実証炉の炉心設計への提供を予定している。燃料集合体内の熱流動現象を適切に予測することで、SFR実証炉の安全性の確保と合理的な設計の両立への貢献が期待されている。