原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

101 核の脅威ない世界目指して

掲載日:2024年12月10日

核不拡散・核セキュリティ総合支援センター 能力構築国際支援室
室長 野呂 尚子

11年にISCNに加わり、主に核セキュリティー分野のトレーニングを担当。ISCNでの最初のトレーニングから講師を務める。IAEAトレーニングの講師および専門家ミッションなどにも参加している。現在は室長として高品質なかつ効果的なトレーニングを追求し、講師・研修事務・設備整備チームを率いている。

「2S」特化で国際貢献

新体制で強化

原子力の平和利用には原子力安全(Safety)、核不拡散・保障措置(Safeguards)、「核セキュリティ」(Security)の三つの「S」の確保が不可欠だ。日本原子力研究開発機構では核不拡散(保障措置)と核セキュリティーの「2S」に特化した人材育成支援に取り組んでおり、2024年度に研修施設2カ所を統合、新体制で強化を進めている。

2Sのうち、保障措置とは核兵器への転用を防ぎ、原子力が平和目的のみに利用されると担保する方策を指す。国際原子力機関(IAEA)や国の査察官が原子力施設に立ち入り、目的外利用はないか、未申告の核物質や活動がないかを査察する。

他方、核セキュリティーはテロリストなどによる核物質や放射性物質の盗取、原子力施設や物質輸送への攻撃などの防止が目的だ。原子力施設防護だけでなく、密輸を防ぐ水際対策や治安機関の対応も含まれ、対象となる活動は幅広い。

アジアの拠点

国際会議での日本政府表明を受け、原子力機構は10年、「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター」(ISCN)を設立し、アジア諸国を中心に2S分野の人材育成支援を開始。リアルな環境で実践的なトレーニングとなるよう施設やメニューを整備した。  

近年は国内電力事業者向けに加え、IAEA主催訓練の実施機関も担ったことで、トレーニング参加国総数は117にのぼっている。

ISCN設立以降、アジア地域は原子力発電の導入を検討する国が増えた。昨今の国際情勢から核兵器使用や核テロの脅威への懸念が強く、さらにサイバー攻撃といった新たな脅威も顕在化した。

国際的な2S分野のトレーニングニーズの高まりも踏まえ、既存施設を統合リニューアルしたのが新施設「ISCN実習フィールド」だ。

主要施設は侵入検知装置や監視カメラなどの実物に触れながら学ぶ「核物質防護実習エリア」と、仮想空間上の原子力施設でセキュリティー機器の特徴や核燃料の動きを再現し、保障措置を学ぶ「バーチャルリアリティ(VR)システム」だ。受講生から好評な2施設統合のもと、新たな脅威に対応したトレーニング開発を進めている。

知見を活用

日本で唯一の、世界でも数少ない核不拡散・核セキュリティートレーニング施設として、我々の知見を最大限に活用し、核兵器・核テロのない世界の実現を目指して人材育成を行っていく。