096 燃料デブリ「その場」分析
掲載日:2024年11月5日
マイクロ波加熱で感度向上
レーザー分光法
東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業を安全に行うため、原子炉内部に残る燃料デブリがどのような状況にあるのかを把握することが重要だ。日本原子力研究開発機構は遠隔から燃料デブリを「その場」で分析する技術として、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)の開発研究を行っており、ウラン同位体の測定にも挑戦している。
この技術ではレーザー光を分析試料に当てて生じたプラズマ発光について、波長スペクトルを解析し、試料に含まれる元素を特定する。試料の前処理は不要で、測定は短時間で多種類の元素を同時に行うことができる。加えて、レーザー光とプラズマ発光はともに光ファイバー経由で遠くに伝送できるので、装置本体を遠隔に据えることも可能となる。
例えば、ロボットアームの先端に測定端子(プローブ)を取り付けて炉内に入れ、安全な位置から炉内にある燃料デブリの状態を把握するといった使い方が想定される。
SN比を改善
また、原子力機構がアイラボ(神戸市中央区)と共同研究を進める「マイクロ波重畳LIBS」技術では、プラズマ発光量の大幅増加が可能になっている。これはレーザー光で生成したプラズマをマイクロ波で加熱することで、プラズマの発光寿命を延ばす仕組みだ。条件次第では時間積分したプラズマ発光量が数百倍に達するので、SN比の改善にも寄与できる。
さらに技術応用として、マイクロ波重畳LIBSと超高分解能分光器を組み合わせたウラン同位体の測定に挑んでいる。燃料に使用するウラン同位体のウラン235とウラン238は発光波長差が非常に小さく、ウラン235の測定には超高分解能分光器が必要だ。
ただし、全体的にスペクトル強度が低くなり、ノイズの影響が大きくなるという課題がある。そこで、マイクロ波重畳LIBSで発光量を増加させてSN比を改善できれば、LIBS計測によるウラン同位体測定もできるのではないかと期待し、検証と実験を進めている。
安全に廃炉作業
LIBS技術の実用化が進めば、燃料デブリを取り出す前に炉内のデブリを迅速に識別した上での処理が可能となる。廃炉作業の効率化と作業員の安全性向上に大きく貢献することにつながるため、今後さらなる研究開発を続け、現場導入の道を開きたいと考えている。