原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

095 ALPS処理水の第三者分析

掲載日:2024年10月29日

福島廃炉安全工学研究所 大熊分析・研究センター 分析部 分析課
技術副主幹 乾 実紗希

原子力機構の大熊分析・研究センターでALPS処理水分析業務に従事するとともに、測定用分析装置の性能確認で用いる放射性核種の数量管理や安全対策、適切な処理方法の検討などを行っている。これらの放射性核種について、関係法令に準じて適切に使用・管理することで円滑なALPS処理水分析に寄与している。

ISO導入 信頼性確保

基準値を守る

東京電力福島第一原子力発電所(1F)の多核種除去設備(ALPS)で放射性物質を除去したALPS処理水については、海洋放出前にALPS処理水中のトリチウム濃度の確認と、トリチウム以外の核種が国の定めた規制基準値を満たすまで浄化されていることの確認が必要だ。

日本原子力研究開発機構の福島廃炉安全工学研究所大熊分析・研究センターでは、客観性および透明性の高い測定を担保するため、第三者分析を実施している。

ALPS処理水の確認分析は海洋放出の実施者である東京電力ホールディングス (HD)が行っている。大熊分析・研究センターは東京電力HDとは独立した第三者の立場で分析を行い、測定結果の信頼性を確保する立場だ。ALPS処理水中のトリチウムと他の放射性核種(68核種)の濃度が、法律基準値を下回るまで浄化されたかを確認している。

1+68

トリチウムの分析では放出される弱い放射線(β線)を測定する。しかし、このβ線が持つエネルギーは非常に弱く、β線単体での測定は困難だ。そこで、シンチレータという放射線で発光する特殊な物質を用いている。トリチウムのβ線を受けてシンチレータが発した光を液体シンチレーションカウンターで計測することで、間接的にALPS処理水中に含まれるトリチウム濃度を測定する。

一方、トリチウム以外の放射性核種については、68ある一つひとつの放射性核種に対して、測定を妨害する他の放射性核種を取り除く前処理を施した後、適切な分析装置によって測定を行っている。今後も分析と並行し、放射性核種によっては工程が複雑となっている前処理方法の簡易化や、より迅速に測定ができる分析手法の開発などを進めていく。

分析能力の証明

また、大熊分析・研究センターでは、分析能力の維持・向上と、より精度の高い分析を実施するため、令和6年3月末にISO/IEC17025の認定を取得した。国際規格に基づいた品質管理体制がしっかりと確立されていることに加え、分析結果についての信頼性が国際的に認められたことを示しており、大熊分析・研究センターの分析能力を証明するものだ。

引き続き分析能力の維持・向上に継続的に取り組み、信頼性を確保した分析結果を公表することで、地域住民の皆さまへの安心材料の提供と国際社会からの信頼を確保し、着実な1F廃炉事業への貢献を果たす。