094 放射性同位体(RI)の測定
掲載日:2024年10月22日
普及機器応用 早く簡単に
東京電力福島第一原子力発電所(1F)の燃料デブリや廃棄物の処分を進めるため、α線やβ線のみを放出する放射性同位体(RI)分析の迅速化や簡便化が重要だ。日本原子力研究開発機構では、長寿命放射性核種で測定が難しい「ヨウ素(I)129」について新たな分析手法を開発した。従来法より負荷軽減ができるだけでなく、放射性核種分析体系の発展にも寄与することが期待される。
ニーズ高い核種
ヨウ素129(半減期1570万年、β線放出核種)は主に原子力施設に由来する。すでに減衰して計測できない環境中のヨウ素131の分布推定や、放射性廃棄物処分の安全評価上重要なRIとして分析ニーズが高い核種だ。現在は加速器質量分析が主流だが、大型かつ高価で保有機関は少なく、マシンタイムの確保が必要になっている。
一方、環境分析機関や半導体産業など多分野で利用されているのが「誘導結合プラズマ質量分析計」(ICP―MS)だ。計測時間が短く、多くの前処理装置と連動可能といった利点があるが、RI分析では分析対象と同じ質量数を持つ妨害物質が存在する場合は適用が制限されてしまう。
実際にヨウ素129をICP―MSで分析すると、プラズマに使うアルゴンガス中の不純物キセノン129と、環境中に大量に共存する非放射性ヨウ素127由来のヨウ化水素(IH₂)イオンが測定を妨害する。キセノンは除外法が開発されたが、ヨウ化水素イオンの除去は難しかった。
適用範囲を拡張
今回、装置内の元素とガスの反応層(CRC)に酸素(O₂)と二酸化炭素(CO₂)を混合導入して処理することで、キセノンとヨウ化水素イオンを同時除去する手法を開発した。キセノンは酸素で除外、ヨウ化水素イオンはヨウ素129よりもサイズが大きいため、二酸化炭素との衝突回数が増大した結果、除去できたと考えられる。従来法と比べヨウ素127が約10倍多く共存してもヨウ素129を計測できるようになり、雨水中のヨウ素129分析へと適用範囲を拡張できた。
福島復興支える
環境中のRI分析では対象RIの存在量、放出する放射線、試料中の妨害物質の量などの影響を加味する必要がある。その分、多くの時間と労力が必要で、多検体処理の負担や分析者の被ばくリスクを増大させ、緊急時対応が困難といった課題も抱える。今後もニーズに沿う合理的なRI分析体系を構築し、福島の復興を支えていきたい。