原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

093 原子炉建屋の滞留汚染水解析

掲載日:2024年10月8日

福島廃炉安全工学研究所 廃炉環境国際共同研究センター 分析研究グループ
 二田 郁子

17年に日本原子力研究開発機構に入構。入構後は主に福島第一原子力発電所に由来する放射性廃棄物の性状把握に携わる。特に、放射能などの分析が主な業務で、採取試料の放射能などの分析や得られた結果の評価を行っている。今後も1Fの廃止措置に貢献するため研究を続ける。

α核種の性状把握で処理改善

東京電力福島第一原子力発電所(1F)では損傷した燃料を冷やすため格納容器に冷却水を注入し続けており、放射性物質が溶け出した大量の汚染水が発生する。日本原子力研究開発機構は1Fの汚染水や沈殿物(スラッジ)を分析し、α線放出核種(α核種)がスラッジ中で鉄と結合して存在することを明らかにした。この成果は1F汚染水処理の改善や汚染水の水位低減への取り組みの一助となっている。

半減期長い

汚染水は原子炉建屋地下に滞留し、東電の調査で、汚染水底部のスラッジ中からプルトニウム(Pu)をはじめ多くのα核種が見つかった。α核種は体内に取り込むと内部から被ばくするため影響が大きく、半減期が長い核種もある。廃炉作業の安全確保や環境中への放出防止の観点から適切な管理が必要だ。このため、α核種が汚染水やスラッジのどちらに多いのかなど、性状把握が求められていた。

原子力機構は、2020―22年に1~3号機から採取された汚染水とスラッジを調査することとなった。ただし、燃料由来のα核種は微量で化学形態などを直接測定するのは難しい。このため、α核種を計量した上で、どんな元素と共存しているのかに着目した分析手法をとった。

99%以上捕捉

スラッジが混ざった汚染水を孔径10㍃―0・02㍃㍍(マイクロは100万分の1)のフィルター4分画へと順にろ過したところ、スラッジのほとんどは10㍃㍍のフィルターで捕集され、放射能分析などからα核種も99%以上がスラッジと同時に捕捉されていた。

また、スラッジを構成する主要元素は鉄で、鉄元素の分布とα核種の分布がおおよそ一致することも判明。これらの結果から、燃料から冷却水に溶出したα核種は、鉄が主成分の化合物に収着した形をとっていることが示された。

一方、わずかに水中で残るα核種は陽イオン交換樹脂で除去できたことから、プラスの電荷を帯びていることも分かった。

廃止措置に貢献

一連の結果は、汚染水中のα核種の拡散防止のため、東電が進める新規設備の検討に反映された。さらに将来、原子炉建屋を解体し処分方法を検討する際には、汚染水と接触した建屋構造物の汚染実態としても活用される。1Fの廃棄物は種類が多岐にわたり、汚染の仕方もさまざまだ。いまだ汚染状況が分からない廃棄物は依然として存在する。今後も分析を通じて1Fの廃止措置に貢献していく。