原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

091 MOX燃料設計に新たな物性式

掲載日:2024年9月24日

核燃料サイクル工学研究所 プルトニウム燃料技術開発センター 燃料技術部 燃料技術開発課
研究副主幹 廣岡 瞬

2010年4月原子力機構に入構後、高速炉用MOX燃料に関する研究・技術開発に従事。実際にMOX燃料を取り扱い、実験データの取得を進めてきた。現在は国内外の研究者・技術者とのネットワークを広げつつ、研究開発を進めるべく奮闘中。日本の未来のため、核燃料サイクルに関する技術を進歩させたい。

精緻な測定 世界をリード

原子炉で使われる核燃料は、溶けないように、また、壊れないように設計されなければならない。日本原子力研究開発機構は、軽水炉や高速炉用ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の設計技術の開発を進めており、これに必要な熱伝導率などの物性式の作成を行ってきた。国際機関でも高く評価され、世界共通の推奨物性式として採用されている。

データを数式に

MOX燃料はウランとプルトニウムを混合して製造する。ウラン燃料とは性質が異なるため、特有の熱伝導率や熱膨張率といった物性値が必要だ。これらの物性値は実験データとして存在するだけでは設計に利用できず、数式となって初めて利用可能になる。

必要な物性値は多岐に渡る。そしてそれぞれの物性値は、温度、酸素濃度、密度などの影響を強く受ける。例えば熱伝導率は、MOX燃料温度の上昇とともに低下するが、ある温度に達すると上昇に転じる。また、酸素濃度はある値のときに最も高く、密度にいたっては正の相関を示す。このように複雑な挙動を示す物性は、データを再現するためだけの単なる数式ではなく、物性現象を適切に表現する数式を提案することで、より正確に表現することが可能になるのだ。

酸素の影響解明

中でも酸素濃度は特に厄介だ。物性値への影響が極めて大きいことは知られていたが、文献から得られるデータはバラつきが大きく、どれが正しいのかが分からない。MOX燃料は酸素が出入りしやすい物質であるため、酸素濃度の制御がうまくできていないことが大きな原因の一つと考えられた。

そこで、MOX燃料の酸素濃度と温度、周囲の酸素分圧の関係について緻密なデータベースを作成し、物性測定中の酸素濃度を精度よく制御する技術を開発した。これにより酸素濃度に関する一貫した物性値を取得し、酸素濃度の影響を組み込んだ物性式を作成した。

海外にも普及

この新しい物性式は海外でも高く評価された。経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)ではMOX燃料の利用を希望する国々の研究者が集い、世界共通の推奨物性式を作成する活動が行われている。この場で原子力機構提案の多くの物性式が採用され、海外に広く普及している。MOX燃料の物性測定や設計に関する技術は、日本が世界をリードする分野となっており、今後もこの分野の優位性が継続するよう技術開発を進めたい。