090 研究炉活用し原子力教育
掲載日:2024年9月17日
次世代専門人材を育成
理解の増進図る
原子力産業の裾野は広く研究領域も多岐にわたるが、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故以降、次世代を担う人材育成が課題となっている。日本原子力研究開発機構では産学官プログラムの一環で、「原子炉安全性研究炉」(NSRR、茨城県東海村)で学生自らが操作する運転実習を開始した。今後は中高生や教職員向けの実習プログラムを検討し、原子力や試験研究炉の理解増進につなげる方針だ。
NSRRは原子炉制御棒の飛び出しなどで瞬間的に起きる出力暴走事故(反応度事故)を再現できる世界でも珍しい研究炉だ。1975年の初臨界以来、反応度事故時の燃料破損条件を分析するため、2023年度末までに1370回の燃料照射実験を実施し、成果は国の安全評価基準に反映されている。1F事故後の13年度からは燃料溶融に至る過酷事故現象を模擬した実験も行っている。
実践学習を進化
国内を見回すと、大学などで原子力教育を草創期から支えてきた試験研究炉は、1F事故後の新規制基準の下その多くが廃止措置となった。一方で、試験研究炉を活用した人材育成ニーズは高まりつつある。こうした状況を踏まえ、原子力機構は09年に始めたNSRRでの教育訓練を加速することにした。
それまでの学生向けの炉物理実習は、NSRRの運転員が原子炉を操作。学生はそのデータを測定するのみで、制御棒操作は行わなかった。そこで我々は、学生が実際に制御棒を操作できる環境を整備、23年度から運転実習を開始した。
初年度の参加学生は東京大学大学院原子力専攻、原子力機構や産学官プログラム「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム」の募集を通じて集まった22人。彼らは自ら制御棒を操作して原子炉の出力調整を行い、さらに、NSRRの特徴である反応度事故の模擬運転で、即発臨界時の瞬間的な強いチェレンコフ光を肉眼観察した。実習後、自分の手で制御棒の操作ができたことやチェレンコフ光を肉眼で観察できたことに大きな反響があった。
PA活動 積極化
今後は中高生や教職員向けの実習プログラム、具体的には原子炉施設見学とチェレンコフ光の観察、教職員向けに原子炉運転操作を含めた実習を検討する。また原子力や試験研究炉の理解促進のため、一般の方を対象としたPA(パブリック・アクセプタンス)活動も積極的に進めたい。これらの活動が、次世代原子力人材育成への貢献につながると期待している。