089 無人航空機で放射線測定
掲載日:2024年9月10日
空間線量率 迅速に把握
緊急監視に投入
2011年の東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故以降、日本原子力研究開発機構は航空機や車両、無人航空機(UAV)などを用いて空間放射線量率のモニタリングを実施してきた。こうした経験を踏まえ進めているのが、原子力災害の発生から短時間で立ち上がる周辺環境調査「緊急モニタリング」に投入できるUAV測定システムの構築だ。
政府の原子力災害対策指針などでは、住民防護を講じるためにも放射性物質や放射線量の状況を把握する緊急モニタリングを重視。確実性の高い情報を得るため、実施体制や機材、手法なども細かく定めている。原子力機構では1F周辺のモニタリングにUAVを導入することで、有人航空機よりも地表に近い空域のデータを収集、より詳細な情報を提供できるようになった。
緊急時モニタリングにUAVを導入する効果は、1F観測の結果からも明らかだ。ただ、UAV本体や放射線測定機器の性能のみならず、運航パイロット体制や取得データ解析と共有方法など、緊急時対応の流れを意識した測定・解析システムの構築が必要となる。
例えば、災害発生後の上空にUAVを飛ばすと、浮遊する放射性物質が機体に付着し続けて測定データへ影響を及ぼし、大気中や地上からの放射線の影響も受けてしまう。
通信システムも
このため、原子力機構はUAV・航空機搭載用の放射線測定システムを開発、モニタリング精度の向上を図った。これと並行して、リアルタイムで監視・解析できるように測定データをサーバーに随時送信する通信システムも構築した。
これにより、発生施設周辺などの空間線量率を迅速に把握でき、また1F事故時には測定できなかった放射性雲(プルーム)の詳細が取得可能になった。プルームの現況情報はその後の拡散予測などに生きる有益な武器となるだろう。
23年10月の国の原子力総合防災訓練ではUAVでのモニタリングを実施。原子力規制庁は24年3月、緊急時モニタリング実施に関する文書を改訂し、観測手段の1つにUAVを正式追加した。原子力防災ツールとして活用が期待されている。
運用法を確立へ
現状、開発したシステムは複数の機体で試験運用中だ。今後の訓練で実効性を向上させ、通信システムの最適化や運用方法の確立を進める。福島の経験を生かして効果的な緊急時モニタリングシステムを構築していきたい。