原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

088 原子炉施設の廃止措置

掲載日:2024年9月3日

新型転換炉原型炉ふげん 廃止措置部
次長 中村 保之

03年に日本原子力研究開発機構に入構後、「ふげん」の原子炉本体の解体検討業務に従事し、主に解体手順検討や切断工法の選定などの技術開発に携わってきた。現在は、「ふげん」の廃止措置計画の変更認可申請などの許認可対応やクリアランス再利用などの理解活動などに従事している。

原子炉解体にレーザー適用

合理的に解体

原子炉施設の廃止措置は、既存技術を活用しながら安全かつ合理的に解体を進める事が求められている。日本原子力研究開発機構では進展目覚ましいレーザー技術に着目し、新型転換炉原型炉ふげんの原子炉本体の解体に向けて新たなレーザー切断方法を開発した。実用化のめども立ち、廃止措置では国内外初となる導入実現のため、大規模実証を進めている。

切断作業向けレーザーは高エネルギーの光線で、ファイバーケーブルを用いるとレーザー発生装置(発振器)から100㍍以上先の切断対象物まで減衰することなく伝送できる。このため、発振器を管理区域外に置いて管理区域内で切断作業ができ、装置のメンテナンスも容易に行える。

また、レーザーをレンズで集光して照射する方法を使えば1㍉㍍以下の狭い切り幅を実現し、放射性粉じんの発生量抑制も期待できる。このように優れた工法であるものの、レーザー光は指向性が高く、切断対象を貫いた光が背後の構造物までをも切ってしまう危険がある“もの刃の剣”だ。

切断方法を考案

防護するにはレーザーを遮断する器具「ダンパー」を設置すればよいが、原子炉施設で、狭い空間に入り組む配管の隙をぬってダンパーを置く―といった困難な工程にも対応しなければならなくなる。こうした課題を解決するため、切断対象の「配管そのもの」がダンパーとして作用する切断方法を考案した。

レーザー光はわずかに扇状に広がりながら進み、エネルギー密度が落ちていく。この特性を活かし、レーザー出力部(レーザー切断ヘッド)を配管の切断部に対して直角ではなく数度、傾斜させて照射した。するとレーザー光は切断線より傾斜角分ずれて反対の内側に達するが、扇形に拡張した分だけ強度が減り、貫通しない。

配管に沿って切断ヘッドを一周させて切る必要はあるが、ダンパー不要のメリットは大きい。すでに管理区域内の実機配管での切断作業を行い、安全性や有効性を実証した。

水中で実証

現在は「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」で実物規模の水中切断実証試験を行っており、2030年度着手予定の原子炉本体の解体に向けて準備を進めている段階だ。私たちが開発した切断方法が化学工場や大型プラントといった堅牢(けんろう)かつ防護対策が必要な施設で、経年対応の保守・解体作業に導入されれば有効な手段になると期待している。