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原子力機構の価値 ~原子力の社会実装に向けて~

日刊工業新聞にて毎週火曜日連載中

087 αダスト 過酷な「その場」で測定

掲載日:2024年8月27日

福島廃炉安全工学研究所 廃炉環境国際共同研究センター デブリ・廃棄物マネジメントグループ
技術副主幹 坪田 陽一

専門は放射性ダストやエアロゾル。単純な放射線測定ではなく、空気動力学的粒径、放射線種、元素情報等、マルチドメインの計測と評価を得意とする。経済協力開発機構/原子力機構(OECD/NEA)のプロジェクトにおいて、廃炉時のダストの発生量・飛散抑制・モニタリングなどを議論する国際共同フレームワークを運営。「ダストといえば坪田」を目指したい。

燃料デブリ切断 安全性向上

モニター開発

東京電力福島第一原子力発電所(1F)の廃炉作業では、燃料デブリの試験的取り出しがまさに始まったところだが、将来的には燃料デブリを切断・解体するフェーズに移行する。日本原子力研究開発機構では、燃料デブリ切断時に発生するα線放出核種(αダスト)を、過酷環境の近傍で測定できるモニターを開発。本モニターは1Fだけでなく、あらゆる原子力・核燃料施設の廃止措置において安全性向上に寄与できる。

1Fの燃料デブリを切断すると、原子炉格納容器(PCV)内に放射性核種を含む微粒子が飛散する。特に吸入時の内部被ばく影響が大きいαダストに関しては、PCV内への閉じ込めと濃度モニタリングが必要不可欠だ。

しかし、1F-PCV内は高湿度かつ高線量の過酷環境であり、燃料デブリ切断で想定されるαダスト濃度も非常に高い。このような状況では、αダストをろ紙に捕集して、その放射能を測るタイプの従来型ダストモニターを用いてリアルタイムの濃度情報を得ることは困難である。

α線を直接測定

そこで原子力機構では、過酷な環境でαダストを「その場」で測定する「In-situ Alpha Air Monitor(IAAM)」を開発した。同モニターの特徴として、扁平型流路にα線検出器を垂直に配置し、流路内のαダストから放出されるα線を直接測定する構造を採用している。

この構造により、ろ紙を使わずに測定が可能になるだけでなく、αダスト濃度に対するリアルタイム応答性が向上した。さらに、高濃度のαダストを測定するため、放射線を光に変換するシンチレーターからの光を、多数のチャンネルで電気信号に変換する仕組みを導入。

これにより、PCV内で想定される濃度の30倍を超える高濃度のαダスト測定を実現した。加えて、高放射線環境でαダストを選択的に測定するため、シンチレーターの厚さと信号処理時のしきい値を最適化し、周囲の放射線(γ線)の影響を大幅に低減した。

幅広い現場に

リアルタイムのαダスト濃度情報は燃料デブリ切断作業の安全性向上への寄与にとどまらず、核燃料物質や鋼材、コンクリートなどが不均質に混ざった燃料デブリを切断する上で、その部位や材質を知るための数少ない手がかりとなる。IAAMの測定能力は、1F以外の核燃料施設の廃止措置においても安全性向上に貢献することが期待されるため、今後も幅広い現場適用を見据え開発を継続する。