086 地下水の流れ 水質から判別
掲載日:2024年8月20日
過去数万年間の変遷推定
領域分布を把握
高レベル放射性廃棄物の地層処分など物質を地下深部に長期間閉じ込めて管理する事業では、「地下水の流れが緩慢で物質が移動しにくい」といった特徴を持つ地下深部の領域の分布を把握する必要がある。この課題に対し日本原子力研究開発機構は、地下水が岩盤中の亀裂に沿って流れているのかどうかを、地上調査で採取した岩石と地下水の水質から判別する手法を開発した。地下深部利用に向けた適地探索の一助になると期待している。
地層処分では、使用済み核燃料の再処理で生じた高レベル放射性廃棄物を地下300 ㍍より深い岩盤中に埋設、数万年以上にわたって人間の生活環境から隔離する。ただし、岩盤中に亀裂があって地下水の通り道になれば、期待した岩盤の閉じ込め機能は低下するおそれがある。
この影響を評価するために亀裂内の水の流速を直接測定することは、装置の検出下限との関係から困難な場合がある。また、地下水の流れをシミュレーション解析で推定するだけでは結果の妥当性を評価できない。このため、亀裂と地下水の流れの関係を実際の観測結果に基づいて判別する手法が必要とされてきた。
水質の違い利用
そこで原子力機構では、亀裂とその周辺の岩盤空隙に含まれる地下水の水質の違いで、亀裂を通じた地下水の流れを示すことができないか検討を行った。「亀裂内の地下水」は地上のボーリング孔から揚水し、「岩盤空隙内の地下水」は亀裂周辺の岩石を圧縮抽出して採取。水の挙動の指標として活用される「水素・酸素安定同位体比」を両者の地下水で比較した。
亀裂に沿って現時点も水質の異なる水が流入している領域では両者の同位体比は異なり、逆に、亀裂に沿った水の流れが緩慢な領域では両者の同位体比は同じになった。この方法によって、北海道の幌延地域の亀裂がある岩盤層にも、地下水の流れが現在生じている領域と緩慢な領域があると判別。さらに、自然由来の放射性同位体「炭素14」による年代測定法と組み合わせることで、過去数万年間の地下水の流れの変遷も推定が可能となった。
地下の適地探索
二酸化炭素(CO₂)の地中貯留など、地層処分にとどまらず地下深部の利用可能性は広がりつつある。今後は、この成果を広域的・長期的な地下水流動のシミュレーション解析に反映するなど、地下水の流れが緩慢な領域を高精度かつ効率的に探索する手法の開発を目指す。